忘れてしまいそうな愛を (ページ8)

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【第１章】　別かれ　※初めての人はここから読んで下さいページ8

気がつけば、ニューヨークの一際目立たない細い道にいた。アルコールの臭いがたちこめ、鼻に入って肺と気分を酔わす。

　緑のツルがはびこった赤レンガの壁を這うように見上げて行き空を見た。冷たい印象を受けた。空が近いように感じた。

　今まで見たこともない程、雲が分厚くなっておっこちてきそうだった。

　俺は不自然なことに気づいた。

　目をこすり、視線をあちこちに泳がす。誰もおらず、そして静かだ。目をこらすが霧のせいで遠くまでは見渡せないが、きっと誰もいない。

　一本の痩せた緑の街灯から背中を離した。伸ばしていた膝も曲げて立ち上がろうとする。

　だが、首筋の辺りにハンマーで殴られたような激痛が走った。俺は動きを止め、ぐっと目を瞑った。

　そして、嫌な予感と共に右手の指先を恐る恐る首筋に近づけていく。不安な気持ちが強くなった。指先で首筋を触れるとまた激痛が走り、反射でびくっとなった。

　さっきので大体の場所は特定出来た。後頭部の少し上くらいだ。

　指先を目線の先に持って行ったが、血はついていない。街灯で頭を強打して、そこから眠ってしまったらしい。

　大事には至らなかったが、後頭部の打撲ということで脳に近い。他の部分に比べて数倍は痛く感じてしまうだろう。

　俺はまた目をぐっと瞑りながら、ゆっくりと立ち上がった。そしてゆっくりと歩き始めた。

　昨日の記憶がなく、何故ここにいるのか分からなかった。

　知っている場所だったのは幸運だ。高校生の頃から、仲間とここで煙草をふかしたり安物のワインを瓶ごと口にしたり、腕相撲をして遊んでいた。

　それぞれ別の建物だというのに、この辺りは赤レンガで統一されている。突当りは何かの大型倉庫、右手はアパート、左手は酒場で２階から上はＶＩＰのパヴだ。

　俺達はその狭い隙間にいる。

　アパートや倉庫の裏のドアに繋がっていたり、酒場の瓶を出し入れする通路でもあるため街灯が設置された。だが、パカパカして貧乏臭く必死に明かりを保とうとしている。

　黒いゴムの腕時計を見ると、時間は全て０を映し出し、ぱっぱっぱっと消えたり点いたりしていた。

　これだけ悪い天気では電波も上手く受信してくれないか。でも、心の４割は何か異常が起きたのだと疑っていた。