忘れてしまいそうな愛を (ページ16)

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　１話ページ16

空がまた曇り始めた。

　多く湿気を含んだ大きな風が俺の髪を揺らした。しばらく待ってるがずっとこんな感じである。砂埃が右手から左手へと流されていくだけの光景がずっと続いている。

　風が吹く方向へ顔を向けると、一台のサイクリング用の自転車に乗った男性が向かって来た。

　グレーの半袖シャツに、バニラ色の半パンを履いている。青のヘルメットは太陽の光を反射している。それに顔にフィットするサングラスをかけ、歌を口ずさんでいるように上半身を左右に揺らしている。

　――それに背中には小型パラシュートがついていた。白地に青でArleneと書かれ、風の軌道に乗ってピンと張り詰めていた。

　俺はすっと立ち上がり、男に聞こえるように「おい！」と叫んだ。男は俺を一瞥すると、ブレーキをかけ始め、驚いたように身体をびくりと反応させた。

　男は自転車から颯爽と降りて、自転車をひきながら俺の方へ歩いてきた。パラシュートはひゅるりと落ちてきて地面でぺしゃりとなっていた。俺も男に歩み寄り、名前を名乗った。

　「俺はカロンだ。お前の名前は？」

　「俺はアーレンだ。お前も生き残ったのか？」

　「その表現が正しいのかは分からない。選ばれたのかもしれない」

　「そうだな」

　俺達は硬い握手を交わした。アーレンは自転車を止めて、青のヘルメットを脱いだ。淡い金髪で短髪。目は青色で赤い鼻は高く、意外にがっしりしている。

　「何故皆がいなくなったのか、お前も知らないんだよな？カロン」
　「暗中模索だよ。アーレン。生存者には数人会ったが、知らなさそうだった」

　カロンはズボンのポケットから細長いガムを取り出し、銀紙をむいて口の中に入れた。梅の匂いが少ししていたので、塩分の補給だと思われる。

　「こんな道、よく自転車で走れたもんだ。何処から来たんだ？」
　「隣町のキューマッチタウンだ。まだ２時間くらいしか走っていないよ」
　「オーケー。２時間か」

　俺は苦笑した。アーレンはガムをくちゃくちゃ言わせていた。

　「道路の中央だとそんなにガタガタ言わないよ。

　パラシュートの文字が空に届くかもしれないと思ってね。少し走ってみたんだ」

　「そうか。オーケー、アーレン」