忘れてしまいそうな愛を (ページ13)

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５話ページ13

レジカウンターにお金を置こうとすると、

　「ああ、お金なんていりませんよ。こんな状況でお金にもう価値はありませんでしょう」
　「なら何でここで働いてるんだ？好き勝手したらいいんじゃないか？」
　「する事ないんですよねぇ。ネットカフェに行っても回線は繋がらないし、漫画も読みつくしてしまって。

　ここにいたら生存者が他にいるって確認出来るし、床はガタガタしてないし、安心ですよ」

　店員はそう言って、ふにゃりと緩い笑顔になった。

　「やり残したことは？ないの？」
　「実は昨日、バンジージャンプしたんですよ。もうやり残したことはありません」
　「まだ若いのに！恋は？女の子とキスはしたの？」
　「こっこんな状況で恋なんか出来る筈ないじゃないですか～！」

　俺と店員はまた声を出して笑った。俺はごめんと軽く謝り、コンビニで買い物を始めた。

　お金を払わずに持ち帰れるとなると食べたい物があれこれと一杯目に留まった。普段はこんなにお金に束縛されているのか。驚きで一杯だ。

　80代のおじいさんのかごはバイクと漫画雑誌、アイスクリーム、アルコール飲料が沢山敷き詰められていた。途中、重たくなったのか下に置いて肩をとんとんと叩いていた。

　「無理をなさらずに」
　「おお、ありがとう。君もね」
　「ええ」

　俺は店員とお爺さんに一礼すると、かごごと店を出た。ガタガタのアスファルトの道を爽快に歩く。心もなんだか踊っている。

　
　家に帰って飲料を冷やし、ビーフジャーキーやスナック菓子をソファの近くに置いた。大好きな映画を見よう。まだみていないＤＶＤをかけよう。誰もいないんだから、誰にも迷惑がかからないんだから、喰い散らかしても誰からも怒られないんだから！

　俺はＤＶＤを開封して滑るようにＤＶＤプレーヤーへ向かった。ビデオデッキに埃がかかっていようが、掃除をしなくても良い。する価値もないんだ！

　ソファに転がって、有り余る程のつまみを手にする。アルコールの蓋は開け、コップに注がずにそのまま口内につける。

　

　今までに味わったことのない自由と開放感。

　悦楽の波に飲まれそうだった。