忘れてしまいそうな愛を (ページ12)

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４話　コンビニページ12

高層マンションの１階にあるコンビニ。そこが一番近い。長く光る看板は薄い明かりを灯して点いており、人っ気が感じられた。

　他の無機質な建物と違い、そのコンビニは浮いている。存在感がある。俺はそれを見て少し足を速め、自動ドアで店内に入った。

　窓ガラスはヒビが入っているが、割れてはいなかった。

　「いらっしゃいませー」

　薄明るい店内に、眼鏡をかけた男性の店員が一人。太っていて可愛い豚のようだ。俺は目を丸くしたが、店を見渡すと80代近いお爺さんがショッピングかごを持ってのそのそと歩いていた。

　生存者はここに立ち寄っているらしい。

　「只今、アンマンがほっかほか！出来上がりはいかがですか？」
　「……じゃあそれをひとつ」
　「はい。かしこまりました」

　張りのある声に驚く。こんな状況なのにイキイキしていた。

　俺はジーンズのポケットから財布を取り出した。

　「お客さん、ここでよくお酒を買っていただいてますよね？嬉しいです」
　「ありがとう。ここ立地が良くて好きなんだ」
　「ありがとうございますー。

　いつもは、こんな会話が出来ないので今日はラフにできて良いです」

　俺は息を止めた。止めたが、直ぐに調子に合わせて

　「外の状況知らないかと思ったよ。普通に働いてるんだから。お客さんの足数は今の所どうなのよ？俺で何人目なわけ？」
　「数えてません。けど、お客さん以外にも何人か来ましたよ。

はい、アンマンどうぞ」

　男性店員は左手でアンマンを渡してくれた。その手の薬指にはシルバーリングがはまっていた。俺はアンマンを受け取って、リングを凝視した。口元に軽い笑みを浮かべながら、

　「結婚してるんですね。気付かなかった」
　「そうですよね。気にしなくていいですって。俺も故郷である日本に帰って、しばらく迎えに来てくれた友人のことわかりませんでしたから」
　「へぇ。君日本人なんだね」

　手に握ったアンマンはとてもホカホカで暖かかった。右手に熱が伝わり、同時に心にも熱が通った。

　「でもね、これアニメのキャラクターのリングなんです」

　俺は笑い声を上げた。そりゃそうだ。こんなぽっちゃりが結婚できる訳ない。店員さんもネタバレをして俺と一緒に笑った。日本人独特の手を使う笑い方だ。