忘れてしまいそうな愛を (ページ11)

今日:5 hit、昨日:2 hit、合計:2,830 hit

３話ページ11

包帯を巻かれた頭が洗面所の鏡に映って目立つ。全く、我ながら情けない姿をしている。

　ブルーの瞳は悲し気に自分を見て、悲し気に歪んだ唇は微笑みを浮かべ、悲しみのあまりに真っ赤になってきた目には涙がうるんでいた。今にもこぼれおちそうになり、同時に瞬きをすると自分の足元に落ちて行った。

　
　そしてガサガサの頬にゆっくりと滑った。

　唇が薄く開き、何かを呟こうとしているが聞き取れるものは何も声は出ていなかった。多分、嘆き、だろう。沢山の感情が収まりきらない器で渦を巻いている。

　
　無我夢中のあまり気付かなかったが、手にもすり傷が幾つかあり、包帯を巻いておいた。今後、何があるかは分からないので重ねず一枚で。

　

　不安が押し寄せてくる。

　
　何の表しようもない感情が。ただ、俺の目から涙をこぼれさせる。

　俺は洗面所から出てリビングのソファに転がった。妻とキスをした場所だ。深緑の分厚い生地で出来た。

　俺はそこで涙を拭い、泣いていた。
　これからどうすればいい――、そう自答自問を繰り返した。腕の電波時計は０を表示したまま点いたり消えたりするだけである。

　

　いつ起きたのかは分からない。ただ、外の明るさから見ると夜にはなっていないらしい。

　落ち着いた。目覚めた頃にはスッキリした感じだった。誰もいない不安は、いつしか誰もいないから出来ることをしよう、という発想に変わっていた。

　俺は家を出た。外はまだ霧があって視界は悪いが、それも何とも思わなくなっていた。歩いていけるコンビニに向かっていた。のしのしと歩いて、コンクリートの凹凸が面倒臭く思えた。

　コンビニに行く理由は、食糧の確保もひとつあるが、好きなものを好きなだけ食べようというものだった。

　家はまだ少々の電力ストックがあり、テレビもついたし(勿論、電波が悪くてスナアラシだが)、水道が使えればトイレも使えた。まだ電気が残っている所を見ると、心に余裕が持てる。

　近所の見慣れた家は、黄色やオレンジと言った派手さは残っていたが窓ガラスが割れ、錆びついたように色が黒くなっていた。酷いとも思わなかった。