忘れてしまいそうな愛を (ページ2)

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１話ページ2

妻のケイトは、溜息を漏らして首をぶるぶると振った。

　「ネイトにも友達が出来れば良いんだがなぁ……」
　「難しいのかもしれないわね」

　ケイトは俺達に背を向け、キッチンでフレンチトーストを作り始めた。角で卵を割り、ボールに放り込む。そこに牛乳をどぼどぼと入れ――。

　俺は新聞の続きに目線を戻した。
　妻のケイトも俺と同じく変わったころがある。

　まず、白かった肌は少し茶色くなってハリもなくなり、口元に皺が出来た。付き合っていた頃は自慢だったくるりとしたまつげは、今はマスカラなしではキマっていない。

　そして髪の毛が傷んで艶がなく、昔は色々な髪型に挑戦していたものの、今では上で１つにくくってごまかしている。

　それに、服装も変わった。バラが描かれた華やかな洋服は着なくなり、今日は白と黄緑のボーターがプリントされた長袖シャツに、ジーンズ。

　変わっていない事と言えば、新婚旅行で買った黄金のイヤリングをしている所や、パステルグリーンのエプロンを身に着けている所だ。

　「母さん、大学受験のテキストが欲しいんだ」
　「いくら？」
　「40ドル……」

　ケイトはコンロのスイッチを切り、この部屋を足早に出て行った。その時にケイトの息を吐く音が聞こえた。

　俺は新聞を折りたたみながら、

　「経済学部のテキストか？」
　「父さんには関係ないよ」

　息子は元気なく言った。悲しそうな雰囲気があり、一度目を向けたが今度はちらちらと２回も３回も視線を向けた。

　「イアン、高校は楽しいか？」
　「まぁそれなりに……」

　イアンは目線を俺の方に向けず、ずっと下を向いている。黒髪と黒の双眸が強調されて思わず目がいってしまう。

　きっと、何かある。

　そう心の何処かで確信を持っているが、その言葉が腹から出なかった。今、息子の世界に深く関わってはいけない気がして。

　ケイトはリビングに戻って来ると、財布から出した40ドルをイアンの目線の先に入れた。ケイトの右手には強くお札が握られていた。

　「はい。大事に使うのよ」
　「ありがとう、ママ」

　そう言って受け取ると、ケイトを見ずにこの部屋から去って行った。