Subject７ 泣き虫が泣かなかった日 trsk ページ12
「鶴、東大合格おめでと」
東京へ向かう新幹線待ちのプラットホームで、霞が言う
いつになくぶっきらぼうだった
「何でそんなに機嫌悪いの...」
「寒いから」
それ、嘘だよね、と言うと霞はあっさり頷いた
「１人だけ先向こうに行くなんて許せん。私も一緒に行きたかった」
「霞明日なだけじゃん。一日くらい追いつくって」
はぁあ？と顰められる顔
「まあ鶴は一生私の気持ち何か分からないでしょうね。まあ知らなくていいよ。ばいばーい」
「だから何でそんな不機嫌なの......」
今度は霞は返事を返さずに、足をぶらぶらとさせる
早朝なのか、東京行きの新幹線待ちのホームはしんとしていた
彼女の目線は彼女のスニーカー辺りをうろうろして、こっちを向かない
多分この機嫌だと、出発前になっても目とか合わないんだろうな、と思う
僕の気持ちを知らないまま、霞は明日東京へ行って、大学で色々な人に出会って、一生を歩んでゆく
霞は僕が一生彼女の気持ちを分からないまま東京へ行くって言っていたけど、こっちも一緒なんだよ
なんて、伝わるわけもなく、霞はスニーカーの先をじっと見つめていた
モヤモヤする、僕が霞の何を知らないのかって言う事と
霞が僕の内に秘めている気持ちを知らないってことが混同して、逆に焦りも出てくる
せめて目くらい合わせてよ、それで未練はない事にするからさ
【間も無く、一番ホームに――――――――――――――――】
「来たよ、鶴」
機嫌が直っていないことが一発で察せられる声音が聞こえて、僕は反射的に立ち上がる
荷物はもう送った、だから今朝詰めたもろもろが入ったスーツケースを転がして、黄色い線の内側に立つ
「鶴」
ん、と言って振り返ると、霞の目には溢れんばかりの涙がたまっていた
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作者名：ぬゐ。 x他1人 | 作成日時：2019年12月9日 10時
