【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ7)

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直接、メッセージをくれたわけではない。
独り言をつらつらと書くようなスレで見つけたその書き込みは明らかにぼくらのいざこざに対して向けられたものだった。

「あの人、前も別スレでもやらかしてたし。言われて当然でしょ」
「謝る必要なんかないのに。間違ってないから、頑張って欲しい」

今思えば、彼女はぼくの喧嘩相手のことが嫌いだったんだと思う。おんなじ敵を持ったから、ぼくを味方につけたかった。いや、もしかしたら味方につけるつもりもなかったのかもしれない。ぼくの存在が、彼女の嫌いなものを少しでも追いやってくれる爆弾のようなものになれたら都合が良かったんだろう。でも、あの時のぼくは馬鹿だったから途端に救われたように気持ちになった。ぼくのことをわかってくれる人がいる。味方をしてくれる人がいる。やっぱりぼくは間違ってなかった。
遠くからひっそりとぼくたちの戦争を見て、ささやかなエールを送る彼女とは違って、ぼくには駆け引きなんてものがなかったので、その日のうちに彼女にメッセージを送った。話してみてもやっぱり、彼女はぼくの味方だった。

当時ぼくは小学生。彼女に実年齢を打ち明けた時に若いねと言われた。そんな彼女に年齢を聞いたら26歳と言われて、ぼくの初恋はうんと難易度が高いなと思ったことを覚えている。後から知った話だが、彼女も可愛げのあるインターネットキッズだったので、うんと年齢をサバ読んでいた。実際はぼくのひとつ下。可愛い嘘まで愛おしかった。ぼくにその嘘がバレた時の彼女は酷く不機嫌で、アカウントをひとつ消したけど、翌週にはやっぱりおんなじようにぼくの隣にいた。
インターネットの人間なんて幻想のように考えるべきだと今のぼくなら言うけれど、あの頃のぼくは彼女を現実にしたくて仕方がなかった。
ぼくと彼女の距離は子供の足で行くにはうんと遠かった。電車なんてひとりで乗ったこともない。Googleマップで検索した彼女とぼくの距離は車で12時間44分もかかったし、ぼくは免許なんて持ってない。通話アプリなんて知らなかったから、ぼくが彼女の声をはじめてきいたのは家の固定電話越しだった。親が寝静まった夜中にきいた彼女の声は、なんとなく、想像通りだった。声を通して話したのはあの一度きりだったと思う。そうしてぼくは、あんなに忘れないぞと思っていた彼女の声をもう覚えていない。ことに今気がついた。

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