【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ6)

今日:8 hit、昨日:10 hit、合計:12,535 hit

・ページ6

あの頃のぼくと言えば、主人公のような気分だった。
ぼくの思想はどこまでも正しいと思っていたし、ポケーっとアホ面かいて生きているやつよりも想像力を担った僕にはうんと大きな価値がある。敵はいなかった。ぼくの正しさはどんな悪にも屈しない。因みに言っておくけれど、あの頃のぼくが言う悪というものは"ぼくにとって都合の悪い"ものを差した。極悪政権にも程がある。君たちはもうお気付きかもしれないが、ぼくは可愛げのあるキッズじゃない。
それでも、ぼくがそのことに気づくのにうんと遅れたのは、周りもおんなじような子供の集まりだったからだろう。難しい言葉とちょっとばかしの知恵を身に付けたぼくは、同年代のキッズたちには負け知らずで、だからこそ自惚れがあった。言っていることはめちゃくちゃでも、それらしいことをいえば罷り通ってしまったのだ。
ことが起きたのは小さな悪を成敗した明くる日のことだった。
炎上していた。なんてことはない、嫌な大人に目をつけられた。いや、嫌な大人と言ったら語弊があるな。多分、半分はまともな大人だった。言ってることは難しくて、オタクみたいで、よく分からなかったけど、あのひとは多分、偽物のぼくとはちがって凄く頭が良かったんだと思う。ぼくが昨日散々思想バトルをして、ぼろ勝ちした相手の後ろにとんでもない悪魔が隠れていた。ぼくの思想はとてもじゃないが勝てなかった。挙句、僕が壁打ちで書いてた恥ずかしいポエムとか、ちょっとやましいイメージプレイみたいなチャットリンクとか、全部晒された。今思い出して考えても、やっぱりあの人半分くらいしかまともな大人じゃなかったな。

「俺は弱い者の味方だから」

いや、でも、待てよ。この図、明らかにいじめられてるのぼくじゃん。正直半泣きだった。親に言いつけてもどうにもならないし、先生なんてもってのほか。そんな暇があるなら勉強のひとつでもしなさいと怒られただろう。
ぼくの味方なんていなかった。大勢に目をつけられた訳でもない。思想と思想の小さな戦争だったけれど、ぼくの気持ちはうんと暗かった。負けたことも嫌だったし、あんなにかっこつけたくせに、ダサい規約違反のイメプが公衆の面前で晒されたことが何よりキツかった。
さすがにやり過ぎじゃない？なんて言ってくれる相手なんかいない。鬱だった。あの日からぼくのユーザーネームは変えていない。

味方なんていない。みんな敵だ。みんな嫌いだ。
そんなぼくの元に現れた救世主が、彼女である。

「謝んなくてもいいのに、絶対あっちが悪かったでしょ」

・→←・