【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ22)

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私を家の前まで送り届けて帰ろうとするトントンの腕を、咄嗟に掴んでいた。
　
「何？」
「……映画でも見ない」
　
　どうして引き止めてしまったのかなんて、自分でもわからない。けれど、今ここでトントンを逃してはいけないと思った。トントンが口を開くまでのわずかな沈黙が、永遠にも等しく感じられた。
　
「ええで」
　
　その言葉に自分でもしらけそうになるほどわざとらしく、嬉しそうな顔をする。その私の顔を見て、トントンが口元を緩めたような気がした。
　狭い上にごちゃごちゃとした玄関で、トントンは律儀に私の分の靴も揃えていた。それを横目に本棚からDVDを引っ張り出して、テレビにセットする。
　
「ちゃんと靴揃えろ」
「うん」
　
　明らかな生返事にもトントンは大して突っ込まなかった。もうすでに画面に釘付けの私の隣にトントンが腰を下ろす。そっと距離を縮めてトントンにもたれかかれば、怪訝そうな顔で私を見つめた。
　
「トントンって私のことすき？」
「は？」
「私はトントンのこと好きだよ」
　
　液晶から目を離さずに喋っているので、トントンがどんな表情をしているかは分からないが、想像には容易い。きっと、深い皺を眉間に刻み込んでいるはずだ。私の質問に、トントンは何も返してくれなかった。素直に好きだと返してくれる人ではないことは知っていた。
　
「一緒に死んでよ」
　
　トントンが声を出すより早く立ち上がって、戸棚から睡眠薬を取り出す。
　
「今までいっぱい迷惑かけてきたけどさ、もうこれでお終いにするから」
　
　おねがい。
　この言葉が声になったかは分からないけど、どうにも願いを聞き入れてくれそうには無さそうだ。
　私を見上げるトントンは想像通りの面持ちで、
　
「アホちゃう」
　
　と吐き捨てた。
　
「どうだろう」
「……ええんか？」
「なにが」
　
　トントンが顔を歪ませる。一体それは何に対する表情なのだろう。