【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ21)

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銭湯帰りのほてった肌を、生温い風が撫でていく。怒ってるみたいな歩調でずんずんと歩くトントンの背中を一生懸命に追いかける。待ってよ、なんて図々しくて言えなかった。
　そうして歩いているうちに、背脂の匂いが漂ってくる。匂いにつられて顔を上げれば、見慣れたラーメン屋に辿り着いていた。トントンが躊躇いなく開けた引き戸を通り、席に着く。お冷を持ってきた店員さんに、トントンが注文を告げた。ええよな、と言う代わりに私にチラリと視線をよこしてきたので、首肯する。
　
「ごめんね」
「何が」
　
　そう問われると、たしかに答えに窮してしまう。結局何も言えなくて、私たちの間に冷たい空気が横たわる。
　気まずい沈黙を破ったのは湯気の立つラーメンだった。
　
「……食べるか」
　
　湯気で白くなった眼鏡を押し上げて、トントンが言った。その言葉に曖昧に返事をする。
　無心で麺を啜っていると、トントンの箸がそっと私のどんぶりにチャーシューを入れた。
　
「いいの？」
　
　トントンはこちらに目を向けず、黙ってラーメンを食べている。今まではありがとうで済ませていたのに、何を今更と思われているのだろうか。
　
「えっと、メンマいる？」
「チャーシューとメンマじゃ価値釣り合ってないやろ。アホちゃう」
　
　トントンが顔を上げて、半笑いで私のことを罵る。
　
「あ、ほって……」
　
　脈絡もなく悲しみが押し寄せてくる。こんなことで泣きたくなかったので、ギュッと目を瞑って涙をこぼさないようにした。
　
「麺、伸びるで」
　
　箸を握りしめて涙を堪える私にトントンが言った。一度頷いてから、ラーメンに視線を落とす。涙が一粒、スープに沈んだ。