【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ18)

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「そんなことないよ」
「期待するだけ無駄なんや」
「むだって、なあに？」

結局は自分も汚い面をした豚と一緒だ。どれだけ理解をしようとしても、理解しきれない。彼らの見る世界すべてが不幸で、すべて醜くて、哀れで、悲しいものだと、そうであって欲しいと思っていた。誰の目から見ても幸せと言えない世界は、嘆かれるべきだと。

「っ、だからぁっ！」

そう思っていたのだ。確かに。
感情任せに離そうとした手のひらを、今度は彼女の方がぎゅっと繋いだまま、離そうとしない。

「……だか、ら……」

くしゃりと顔を歪める。今度こそ、迷子の子供と変わらないみたいに、折り曲げた膝に顔を埋めて、泣きそうになった。

「どうしたの？おなかいたい？」

繋いでいない方の手で無垢な手が小さな背中を撫でる。
あたたかな手だった。父親に撫でられたその温度とおなじくらい、確かな温もりがあった。

「さみしくなっちゃった？」

的外れなことばかり。違うって言いたいのに声が出なくて、代わりに首を振る。それをどうしてか肯定と捉えたようで、慰めるようにぴったりと薄汚い身体をひっつけた。

「わた、しも……ままにあえなくてさみしいから、お、おそろいだよ」

母親が愛し子にそうするみたいにハグをして、頭を撫でる。誕生日の朝にプレゼントされた新しい服だって、もうどこまでも泥だらけだ。

「なかないで、おにいちゃん」

それは間違いなく出逢いであった。
彼の世界を変えるほんの一瞬に過ぎない。

「だいじょうぶ、きっとおうちに帰れるよ」

どこから渡ってきたわけでもない愛が、確かにそこにはあった。
学がなくても、金がなくても、希望を知らなくても、抱ける想いがそこにはあった。

「だから、げんきをだしてね」

暗がりに瞬く一等星よ。
夜とさようならをして、朝が来たそのあとでさえも、消えないでいてね。
触れた愛のうつくしさを、どうか忘れないように。

多くのものは救えない。世界を変えようなんて、革命を起こそうだなんて、間抜けな話である。
結局は子供の脳天気な夢。神でもない我々は、世界の理を揺るがす力なんてものを持たずに生まれてきたのだから。

愛にできることなんて、そんなに多くはない。
世界を愛し続けることも、平等に世界に愛されることも、きっと難しい。

だから、ぼくらは手を繋ぐのだ。
ひろい世界の真ん中で、ちいさな愛の檻を立てて、豊かな世界というものは盲目の中で生きている。