【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ16)

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「ま、まいご！」
「……はぁ？迷子？」
「おにいちゃんっ！まいご！」

小さな身体のどこからこんなに大きな声が出るのかと、そう言いたくなるくらい大きな声。耳を劈く甲高い少女の声に、思わず一歩後退る。その言葉の内容が理解できないから、尚更癪な気分だ。

「俺、迷子やないで」

手を差し伸べた時のような優しさを捨てて、トントンは無愛想に答える。触れた手をぱっと離して、ポケットのハンカチでわざとらしく汚れを拭いて見せた。その仕草はとても卑しく、侮辱的で、きっと怒ると思っていたのに、少女は首を傾げるだけで、そのことがかえって彼には居心地が悪い。

「だって、ひとりなんだもん。こどもなのに」

自分は何も悪いことは言っていませんよという顔をした女の子は、行き交う売人の邪魔にならないように、振り払われた手をもう一度繋いで、道の端へと寄る。それが更に理解できないという顔をして、トントンはうんうんと悩みながら眉間に皺を寄せた。

「はぁ……あんなぁ、俺は別に子供なわけでもないで」
「だって、こんなにちいさいのに？」
「お前よりうんと大きいやろ」

道の隅っこで内緒話をするみたいに、ふたりは腰を降ろす。大人にばれないように、見つからないように、身体を小さくして、声を顰める。彼女が何となくそうするものだから、トントンも同じようにした。

「でも、おじさんよりちいさいよ」
「おじさんて、どこのおじさんのこと言うてんの」
「おじさんはおじさんだよ、おにいちゃんしらないの？」

少女の言葉を真剣に理解しようとして、話を聞こうとするけれど、それがあまりに突飛で分からないものだから、初めての生物に出会ったような気分になる。でも、今度こそ繋いだ手のことがそんなに不愉快には思えない。

「知らんよ、分からへん」
「へんなの、おにいちゃん何でも知ってそうなのに」
「そりゃ、お前よりは色んなこと知っとるやろ。たぶん……」

はっきりと言い切った後に、不安そうな色を映したトントンの日暮れのような瞳を見つめて、少女はまたクスクスと笑う。それから自分の方が物知りだと自慢するように、知っていることを指折り数えて、彼に聞かせた。

世界というものはね、想像の中で幾らでも好きなように創りかえることができるものなのだよ。