【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ15)

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覚束無い足取りで悍ましい道を歩く度に忌々しげな視線を一身に受ける。酷く居心地が悪い。けれど、自分だけは、あの豚共とは違うのだと、説明出来る術をトントンは持たなかった。

「わかるわけない、わかっていいわけない」

クソッタレだと、口汚い悪態を吐く。そういう言葉を咎められる世界で生きてきたのに、本当の薄汚さを咎める人はどこにだって居なかった。
逃げ場などない。そんな自分がまるで檻に閉じ込められた彼らと同じように見える。否、いいや、本当は同じであるべきなのだ。その柵の内側と外側を決めるのは、決して誰かではない。我々は神ではない。人として生を受けた以上誰だって。他人の人生に対する選択権が己にあると思うことこそ愚かである。

歩いて、走って、転げた先に何があるのかを少年はまだ知らなかった。一寸先の暗闇さえ見えないくらいがむしゃらに、朧気な思考を餞に、トントンはようやく辿り着いた――わけではなかった。ただ立ち止まった。己の身体に何かが触れたのに気がついて。その僅かな衝撃に覚えがあって、足を止めた。

「っ、ぁ」

まるで無理やり現実に引き戻されたみたいに、トントンはぱちくりとわざとらしく瞬きをする。何も見えずに歩いていたせいで、触れるまでそれに気が付かなかった。よろけただけの彼に対して、大きく仰け反って転んだボロ布をまじまじと見つめる。

「あの、ええと……」

よく見なくてもそれは女の子だった。齢は十に満たないくらいだろうか。ざっくばらんに切られた栗毛を細い紐で結んで、ワンピースに見えたボロボロの衣服は大人物のシャツであることが分かった。見窄らしいその姿に、トントンは思わず眉を顰める。彼は汚いものが嫌いだったが、それよりもずっと、それが良しとされることが嫌いだった。

「すまん、その……前見とらんくて、怪我ないか？」

へなへなと座り込んで動かない子供に手を差し伸べて、トントンは言葉を落とす。触れた指先は氷のように冷たくて、立たせようと引っ張れば羽のように軽かった。
薄い瞳の色は、まるで流れ星でも見つけたような珍しさを持って、彼のことをじっと見つめている。