【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ13)

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希望の世とは/tn 研修生ページ13

曰く空は青かった。
まるで愛し子を腕に抱くみたいに、初めてそんな陳腐なことをぼくは言い聞かせられたのだ。

まともな世界を見る為には大層なことなんてしなくてもいい。
色眼鏡なんてもの捨ててくれて構わないし、煌びやかに輝くものなんて宛にもならないだろう。金で救える思想がなければ、教わり学べる感情などない。
では何が必要なんだ。こういう話をすると、そう問いたがる馬鹿がいる。ないものばかりを数えるから、あるものだけを誇りたがるから、つまらない世界の片隅に置いていかれたような気分になるのだといつまでも気がつかない。

考えても見てくれ。格子の嵌められた内と外の違いを言い表せるほど、世界は色を変えるのか。人として誇れるような善行が、必ず悪にはならないと夢に眠る子供に言い聞かせられるのか。応えなんてものはきっとイエスやノーには収まらない。或いはそうあるべきなのだ。

正しいものを見極める為の正しささえ知らないまま
僕らは生きて逝くのだから

埃臭くカビの生えた泥舟は、世態が沈む色を持つ。
すし詰めになった不快感を吐き出すように、少年は肺の中に溜まった重たい空気を吐き出した。その一瞬だけで、心の中はもっとずっと救えない何かに覆い尽くされたような気分になる。その正体に気が付いて、彼は颯爽と、憎々しげに、馬鹿らしく、舌打ちを落とした。

篠突く雨が上がった頃、葉末に縋る雨露がふわりと風に拐われる。その在り来りなさまを、少年はまるでどうしようもないものに連れ去られる自分の思想みたいに、何の気なしに眺めていた。
自分よりうんと背丈の高い汚泥を遊ぐその船を見て、今まで保っていた僅かばかりの正しさがボロボロと音を立てて崩れていくような気がしたのだ。それは大袈裟な言葉ではなく、等身大の世界に触れてようやく、膨大な世界に対しての己の無知に気づくような、そういう感覚。

到底、彼の小さな掌では及ばないくらい。
世界は愛よりも憎しみを選んでいた。

「哀れんではいけないよ」

あたたかな父の言葉にトントンが言伏せられたのは、まだ短い人生の中で二度目のことだ。
喪失感以外のすべてを忘れさせてくれるその光景は、感情は、まるで嘗て幼子の掌に抱えられた羽の折れた小さな小鳥に抱くソレに少しだけ似ている。理不尽に振り落とされたまま、誰にも拾われることのない幽くように消えていくただそれだけの命。そういうものは見なかったふりをしなさいと言うのが、彼の父の教えであった。