【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ12)

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　ですが、人生万事塞翁が馬と言いますでしょう。私の様な者でも娶りたいと仰る方がいました。彼から贈られた手紙は、きっと言葉を尽くしてくれた事がよく分かる程に、私への好意が書かれていました。
　本当の事を申しますと、己で言うのも恥ずかしいものですが、金銭を目当てにした求愛かと疑いました。言ってしまいますと、彼は没落貴族の出身でしたから。ええ、今思えば誠実な彼に此の様な疑心を抱いた事を後悔しております。
　それから、何度か文通を重ねて、とうとう彼とお会いする事になったのです。どうやら彼は街を歩いていた私に一目惚れをされた様で、私の顔は知っていたのですが、乙女心に少しでも醜い顔が見えぬ様にと帽子を被って行きました。
　初めて殿方と逢瀬を致しましたから、酷く緊張してぎこちのない私を、彼は愛おしものを見る様な目で私を見つめるものですから、何だか擽ったい気持ちになりましたわ。
　数ヶ月後には両家の元へ挨拶へ行き、無事結婚の許可を頂けました。家を建て、全てが順風満帆でした。
　ある日の夜の事です。仕事へ行かれる前に彼は、今日は帰りが遅いから部屋で待っていろと仰いましたが、夜に物音がして、彼が帰って来たのだと思い、居てもたってもいられず彼を迎えに行きました。彼ともう一人、男性の様な人影がありました。彼のご友人かと思い挨拶を、と思い、近付きました。きっと見間違いでしょう。あの日私を襲った暴漢と、彼が共に居たのは。ええ、暗かったから見紛ったに違いありません。妙な胸騒ぎがしましたが、彼に限って有り得ません。こうして疑うことは裏切りに値するでしょう。他人の空似だと言い聞かせて、二人には話し掛けず寝室へと戻りました。寝室へやって来た彼には、何も言えませんでした。いつも通り私を愛おしそうに見る彼に、矢張り私の勘違いだと思いました。
　彼は誠実な方です。軍事に従属していらっしゃいますから、実直な者でなければ軍人に向いていませんので、当然ではあるのでしょう。
　貞実に私を愛して下さり、此の醜い顔すら受け入れて下さいました。ですから、私は貴方に嫁入りをしたのです。貴方の寛大な心と想いは、私にとって非常に心嬉しいものでした。貴方が私を愛して下さったから、私も貴方を愛する事が出来ます。私の様な女でも恋をして良いのだと、貴方が教えて下さいました。
　どうか末永く彼と共にいられますように。

ーー年ー月

大条 A

希望の世とは/tn 研修生→←手記/ut お花畑