【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ11)

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手記/ut お花畑ページ11

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「また、です」
　書き物をしていた手を止めて、母の方を見ました。母は手に持っていた紙を机に置きました。読まなくとも私には解りますの。見合いの断りをそれはそれは丁重に、お互いの面目を潰さないようにと言葉を選んだ手紙でしょう。
　そうですか、と返せば、母は落胆を隠すつもりなどないようで、態とらしく大きく息を吐きました。
　きっとその顔のせいよ、と恨めしそうに私の顔を睨んで、そして、嗚呼、と右手で顔を覆い、首を横に振りました。其の様な母の姿を見れば、私も意識せず顔に手が伸びます。本来であればするりと滑るはずの頬は、ざらざらと指が引っかかりましたわ。
　私が此の様な醜い姿となったのは、数ヶ月前の話です。まだ凩の吹く肌寒い道を私は歩いていました。些細な用事でした。
　女の一人歩きとは危険だと、よく耳にしておりましたが、私にとっては全く違う世界の話だと、心の何処かで思っていました。
　何処から現れたのか、暴漢が私を襲い、抵抗する術など持っていない弱い女でしたから、力強く頬を殴られました。その後、持っていたマッチに火を付け私の目に近付け、焼こうとしたのです。幸いにも騒ぎを聞き付けた方々が助けてくれなかったら、私は今頃物言わぬ亡骸となっていたに違いありません。命こそ助かったものの、顔には火傷の痕が残ってしまいました。
　以来、私は火が恐ろしくて仕方がありませんでした。厨に立つ事も儘ならず、息を荒くして蹲み込んでしまうのです。火も焚べられず料理も出来ない女、況してや顔に火傷の醜い傷がある女など誰が娶ってくれるでしょうか。父も、母も、兄弟も皆私の結婚を諦めていました。
　商家の娘として両親には様々な教育を施されました。琴に和歌、お習字、裁縫、料理等非常に多くの女としての教養を教え込まれましたが、生涯の伴侶など夢のまた夢となってしまった私は家に仕え、下女と同じ様に過ごすのだろうと思っておりました。

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