【ωrωrd!】サロメの盲愛【短編集】 (ページ2)

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燃ゆるひと/pi ペロページ2

彼女の葬式を行ったのは、梅雨入りの直後だった。連日の雨が嘘のようにからりと晴れた初夏に、彼女は灰になる。
　
　まだ軍学校を出たばかりの新兵である俺たちが殉職したところで、一斉に燃やされておしまいだと話した彼女が、だから偉くなって盛大に弔ってもらおうと戯言のような約束をした彼女が死んだ。

　一発目の銃弾は肩を、二発目は胸を貫いた。たったふたかけらの鉛で、彼女は容易く崩れ落ち、泥濘の中にだくだくと血を流し続けた。キーンと耳鳴りがして、一瞬、自分のいる場所がわからなくなる。どこかからの爆発音で辛うじて意識を掴み取る。泥を血で汚す彼女から目が離せない。銃口はとっくに地面に向けられていた。
　銃弾の飛び交う中、俺はぴくりともしない彼女の首根っこを掴んで、塹壕へと引き返す。上官の怒声を背中に浴びても、お前を殺した鉛玉に背を向けることになっても、止まることはできなかった。

　彼女を背負って、森の中を彷徨う。
　とにかく誰にも出会いたくなかった。敵はもちろん、味方にだって。必死に足を進めた先で見つけた洞窟で、彼女を下ろす。硬くなった彼女の腕に触れても、冷たい頬を撫でても、お前の死に相応しい感情が湧いてこない。わかりやすく涙でも流れてくれればよかったのに、とため息を漏らさずにはいられなかった。

　しけたマッチは、四本目でようやく火がついた。枯れ木や木の皮の上でチロチロと燃える小さな炎を絶やさないように、慎重に彼女を寝かせる。上官の私物からくすねた強い酒を取り出して、栓を抜く。やけくそみたいに一度呷ってから、残りの酒を彼女の上にかけた。
擦ったマッチから手を離すと、アルコールまみれの彼女が燃え上がった。暗い色の炎が彼女の青白い頬をちらちらと照らす。その様を見ながら、一体どんな顔をしているのが正しいのだろうと鈍く思考をする。大切な人が死んだというのに、戦場で麻痺した心では泣くことも取り乱す事もできない。ただ、淡々と彼女を燃やす事ばかりが精一杯の俺の弔いだった。こんな弔い方しかできない俺に、彼女の死体を連れていく資格はあったのだろうか。彼女の親族よりも、誰もよりも彼女を悼める自信はあったのだろうか。

　彼女の肉が焼け焦げて、灰と骨に近づいていくのをしかと脳裏に焼き付けていた。

・→←情とは厄介なもので/ut お花畑