選手としてみた、されてみた龍神編【短編集】

＿ Yuki.I ページ10

最近俺には悩みがある。


それは、マネージャーのAちゃんが俺だけ名前を呼んでくれないこと。

他の人なら例えば、"藍くん"とか、"有志さん"とかちゃんと名前を呼ばれているのに、俺だけ"キャプテン"。"石川さん"とすら呼ばれたことがない。

周りが皆名前を呼ばれているのを毎日のように聞いていれば、当然俺のこともちゃんと名前で呼んでほしいと思わないはずもなく。


今までずっと黙っていたが、遂に俺は限界を迎えた。


「Aちゃん」

『はい、キャプテン！』

「···そのキャプテンっての、もうやめてよ」

『えぇ···？』


あからさまに嫌そうな顔をしたAちゃん。その顔地味に傷つくな。


「だって、俺だけずっとキャプテンキャプテンってさ···。俺のこともそろそろ名前で呼んでよ」

『いや、ちょっとハードル高いです』

「なんでよー。普段皆のこと名前で呼んでんだから余裕でしょ」

『あ、いや、えっと···』

「名前呼んでくれないとここで泣きわめくよ」

『待ってそれは普通に困る』

「ほらほらー、俺が暴れ回ってもいいのかー？」

『あぁもう！分かった！分かったから！！』


Aちゃんは少し赤くなった頬を手に持っていたバインダーで隠しながら恥ずかしそうに呟いた。



『ゆっ、ゆうきさん···』

「···もっかい言って」

『ゆうき、さん』


Aちゃんの顔は俺の名前を呼ぶ度に赤みが増していく。
その恥じらう姿が可愛くて、俺も口元が緩んでしまう。


「かっわ···」

『へ？』

「なんでもない。まあ及第点かな。これからはできれば呼び捨てで」

『え？！無理無理無理、ちょっと待っ、』

「んじゃ。よろしくー」


もうこれ以上は平静を保っていられないような気がして、逃げるように立ち去った。


ただのキャプテンを脱して、早くAちゃんの特別になりたい。
その気持ちが、少し先走ってしまったのかもしれない。






(requested by みかん様)

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