選手としてみた、されてみた龍神編【短編集】

体調不良 Kentaro.T ページ25

珍しく健太郎が風邪をひいた。

本人曰く解熱剤が効いたのか微熱まで熱が下がったようで、体もそこまで辛いわけではないらしい。
でも、いつも元気な彼がこうして体調を崩していると、私の気分もなんとなく落ちていた。

ため息をひとつついて、さっき刻んだ野菜を鍋の中に放りこむ。


具材にいい感じに火が通ってきてそろそろスープができあがるという頃、後ろからふわっと誰かに抱きしめられた。

その主は当然健太郎。



『寝てないとだめでしょ、どうしたの？』

「Aの近くにいたかったの。だめだった？」

『···だめじゃない』


そう言うと、健太郎はマスクの下でニヤッと口角を上げた。


「それ、作ってくれたの？」

『うん。ほんとはもうちょっと消化のいいやつとか作ってあげるべきなんだろうけど···。料理苦手な私にはこれが限界だったわ。ごめんね』

「謝ることないだろ。苦手でもAが俺のために作ってくれたんだもん、嬉しいよ。ありがと」

『健太郎···』


嬉しくて泣きそうになって、私は彼からそっと視線を逸らした。
すると、頭上から力のない声が降りかかる。


「あー···キスしたい」

『へっ？』

「あぁいや、しないよ。伝染(うつ)しちゃうし」


治ったらね、と言って笑った健太郎のマスクを下にずらして、彼の頬に触れるだけのキスをした。
いきなりのことに驚いたのか、目を大きくする健太郎。



『早く元気になってね』

「···治ったわ」

『治ってません』









(requested by ルカ様)

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