5.轟焦凍の場合 ページ42
「あの、轟くん」
帰り支度を済ませ教室を出ると
Aに声をかけられた。
それが嬉しいと思った反面
昼間言ったのに…
俺を轟と呼んだことに対して
ほんの少しの苛立ちも覚えた。
ここ最近感じている
この変な感情は…
一体なにが原因なのだろうか。
「どうかしたか、A」
聞けば、頬がほんのり染まった。
やっぱり、Aの顔が赤くなると
いつも以上に可愛い。
「あ、えっと…一緒に帰らない?」
早速、A呼びの効果が出たのか
いつも芦戸達と帰るのに、誘ってくれた。
それに、心臓が少し早く脈打った気がして
思わず胸に手を当ててしまう。
「どうしたの?胸押さえて…痛いの?」
心配そうな顔で覗き込まれて
また、ドキドキと大きく鳴った。
「いや、痛くはない。帰ろう。」
「そか。良かった。」
Aは優しい。
本当に誰にでも。
表情から感情も読みやすいから
Aが優しい顔で笑ってると
それが周りに伝播する。
彼女が笑顔で言う『大丈夫』は
緑谷が言う『大丈夫』と似て非なる強さがあった。
「あのさ、えっと、昼間の…仲良くなりたいってのだけど…」
「あぁ…最近、俺のこと避けていただろ?」
聞き返せば、Aはハッとして
その表情が図星だということを表していた。
ほんの少し傷つく。
誰にでも平等に優しい彼女が、避けるなんて余程の事だ。
「俺は仲良いつもりでいたけど、そうじゃなかったみたいだから…もっと仲良くなりたいって思っただけだ。」
そう言うと焦ったように否定してきた。
「ごめん、違うの!なんていうか…」
頬がまた染まっていく。
「と、轟くんが、イケメンすぎるから、変に意識しちゃって…!!」
…どういうことか、よくわからなかった。
ただ、一つ言えるのは
Aが異常に可愛いということ。
「嫌われている…とかじゃねぇってことか?」
「違うよ!嫌いじゃないし、仲良くしたいと思ってるよ!」
必死で訴えてくる様子に、安心して
口元が弧を描くのがわかった。
「良かった」
Aはパッと視線を逸らして
両頬を手で包みこんでいる。
不思議に思って顔を盗み見たら
真っ赤になっていて…
それに俺の心臓がどくどくと激しく鳴りだした。
最近のこの異常な動悸の理由は
俺には、まだわからない。
でも、Aの赤い顔は好きだと思った＿＿＿
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作者名：chieko | 作成日時：2024年3月6日 15時
