5 万能と1歩 ページ5
僕は料理が好きだ。
料理を作ることは簡単な気分転換にもなるし、美味しいものを追求していくということは、絶え間ない幸せへの追求のようで、ハマると抜け出せない。
料理は人を癒し、活力にし、幸せにする。
さらに人々を繋ぐツールとしても役に立つ、万能なもの。
確かカルエゴさんと僕が互いに初めて歩み寄れたあの出来事も、料理がきっかけだった。
*
一緒に住み初めた当初、僕達は特に険悪なムードにもならず、快適に過ごしていた。
何故かと言うと朝早くに出て夜遅くに帰ってくるカルエゴさんの生活リズムは、僕とはまるっきり違っていて、一緒に住んでるけど、なんだかまるで互いが空気みたいだったから。
僕はそれがどうにももどかしかった。
顔を合わせれば嫌味を言ってくるし、すぐに通報しようとする嫌な人だけど、家賃も食費も光熱費も払えない無銭男を、体裁のためだけとは言え、面倒見てくれていることが、普通できることではないと僕は知っている。だからせめて何かをあの人に返したくて、いつも料理を作って置いてあげていた。
ある日、珍しくカルエゴさんが早く帰ってきた。ちょうど晩御飯を用意している時で、僕は初めてカルエゴさんに出来たての温かいご飯を食べてもらえる!と、大急ぎで準備をした。全9品。暇過ぎると、普段の食事も豪勢になりがちだ。
「よくこんなに作れるな」
「や、普通ですよ。僕が楽しいからやってるだけだし」
そうして魔術で温め直す必要のない、本当に温かい料理が食卓に並ぶ。どうせならワインも出しちゃえ。カルエゴさんに許可を取って、2つのグラスに注いで並べる。
そうしていつものように手を合わせる。
「いただきます」
「……それ、一体なんなんだ」
「?あ、これはムサカと言って、ギリシャ料理の〜」
「いや、その奇妙な挨拶だ」
奇妙?なのかな。これは挨拶のようでマナーのようで……
「儀式ですよ」
「儀式?」
「美味しくなるための。作ったご飯を、最後まで大事に頂戴いたしますって、宣言してるんです」
「ふーん…」
カルエゴさんはグラスに入った赤ワインを左右に揺らしながら、じっと僕を見つめる。
「変わってるな」
「はは、変わってる人は嫌いですか」
「……学校ではそんな子供がわんさかいる」
初めて聞く職場の話。
カルエゴさんが教師だということは聞いていたけど、それ以外のことは何も知らなかった。一年生の担任を持っていることも、生徒たちのことを話す目が厳しいのに優しさが垣間見えるのも。
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奏(プロフ) - 本編もおまけもとっても面白かったです〜!友達以上恋人未満の関係の設定がめっちゃ良かったです!作品制作お疲れ様でした!作者様の他作品も見させていただきます〜! (2023年2月25日 8時) (レス) @page37 id: 89231dfe0c (このIDを非表示/違反報告)
南条(プロフ) - ガスカさん» コメントありがとうございます!応援のお言葉本当に嬉しいです。とても励みになります! (2022年12月18日 20時) (レス) id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
ガスカ - 続き楽しみにしています。頑張ってください!応援してます (2022年12月18日 18時) (レス) id: 59f6634a23 (このIDを非表示/違反報告)
南条(プロフ) - ルーミアさん» コメントありがとうございます!主人公の過去については、ゆっくり紐解いていきますので、気長にお楽しみいただければと思います! (2022年12月5日 19時) (レス) @page16 id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
ルーミア - 昔に何があったのでしょうか気になりますね!次の更新頑張ってください!楽しみにしています (2022年12月5日 14時) (レス) @page15 id: 1c035b5819 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:南条 | 作成日時:2022年11月18日 8時