19 帰り道と自由な ページ19
「カルエゴさん!これです!これが欲しいんです!」
「……これ?」
クラシックコンサート終わりにカルエゴさん御用達の高級スーパーへ寄った帰り道、楽器店のショーウィンドウに並んでいた誰にでも弾ける楽器として有名なオタ〇トーンを指さす。
場所も取らず、音も大きすぎず、簡単に音楽体験ができるとしてどうやら魔界でも輸入されているようだった。
僕はそのおもちゃが、とてもとても欲しかった。
なんたってその見た目の愛らしさ。口を開けた時のぽかんとした表情から発せられる可愛らしい音階。心を鷲掴みされるとはこのことかと、人間界にいた時からずっと欲しかった。
「1回遊んですぐ飽きるだろ」
「そんなことないです!いっぱい練習します!」
「そう言ってオブジェになったのはなんだったか?」
「今度はちゃんとするもん!」
「……」
じとっとした目で拒否の意を示される。
「あれーカルエゴ先生?奇遇ですね〜……え?」
すると後ろから声がかけられる。ニコニコと快活そうな男性だ。先生と呼ぶってことは、同僚の教師なのかな?
「あぁダリ先生どうも」
「え?え?あれ、その子って」
何やら僕とカルエゴさんを交互に見て動揺した様子の同僚さん。僕らはその意味が分からず、目をぱちくりさせる。
「まさか彼女って…!……あーでも流石に未成年は辞めといたほうが」
「全部違う!」
何やら変な合点のいった同僚さんを、カルエゴさんは胸ぐらを掴む勢いで否定した。
その恐ろしい顔は大抵の人なら恐れをなしそうだったが、ヘラヘラと平気な様子の同僚さんは、もしかするとカルエゴさんと付き合いが長いのかもしれない。
「ただの家政夫だ」
「なっ!家政夫じゃないです!僕は……僕は?」
あれ、僕ってそういえば居候?ヒモ?なんなんだろう。
友達でもなければ、家族でも恋人でもない。同じ家計内で養ってもらっているから、他人と呼ぶには近すぎる。
これって…?
「ほらカルエゴ先生、彼にちゃんと言ってあげなきゃ〜」
「……名前なんているか?」
既存の言葉に当てはまらない関係だと、公然に言われた気がした。
僕たちは名前に縛られない。
自由で、何者でもなくて、なんでもなれる――
「えーなんかそれ……ま、喜んでるみたいだしいっか!」
ありがとう同僚さん。今すごく嬉しい。
僕は思わず胸がいっぱいになって、目の前のオ〇マトーンをもう一度指さす。
「っカルエゴさん!これ買って下さい!」
「却下」
それとこれとは話が違うらしい。
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奏(プロフ) - 本編もおまけもとっても面白かったです〜!友達以上恋人未満の関係の設定がめっちゃ良かったです!作品制作お疲れ様でした!作者様の他作品も見させていただきます〜! (2023年2月25日 8時) (レス) @page37 id: 89231dfe0c (このIDを非表示/違反報告)
南条(プロフ) - ガスカさん» コメントありがとうございます!応援のお言葉本当に嬉しいです。とても励みになります! (2022年12月18日 20時) (レス) id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
ガスカ - 続き楽しみにしています。頑張ってください!応援してます (2022年12月18日 18時) (レス) id: 59f6634a23 (このIDを非表示/違反報告)
南条(プロフ) - ルーミアさん» コメントありがとうございます!主人公の過去については、ゆっくり紐解いていきますので、気長にお楽しみいただければと思います! (2022年12月5日 19時) (レス) @page16 id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
ルーミア - 昔に何があったのでしょうか気になりますね!次の更新頑張ってください!楽しみにしています (2022年12月5日 14時) (レス) @page15 id: 1c035b5819 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:南条 | 作成日時:2022年11月18日 8時