611.学秀side ページ38
「……」
Aの部屋。
今まで彼女の部屋に入った男は
僕しかいなかったというのに。
こうも簡単に男を部屋に招き入れるのか。
危機感が足りないんじゃないか。
「聞いてる?」
目の前の赤羽が、首を傾げる。
さもAは自分のものだとでも言いたげな顔で。
「目の前の部屋だ」
真っ黒に染まりそうな頭を振って、
一言そう告げると、僕は机に向き直った。
これ以上こいつといると、正気でいられる気がしない。
「そ。ありがと」
赤羽はそう言って、何故か僕の机のあたりまで来た。
「まだ何か用か」
赤羽は僕のテキストをのぞき込んで、
そのまま僕の顔も下から見上げるようにのぞいた。
「浅野くんさ、Aにもうなんもしてないよね?」
どくん、と心臓が嫌な音を立てる。
「…ああ」
「そ。Aは俺の彼女だから。
もう余計なことしないでね」
赤羽はそう笑って、僕から離れた。
「っ…、Aは僕の______!」
許嫁だ。
そう言おうとして、口を噤んだ。
赤羽は一瞬振り返ると、微笑って部屋を出て行った。
パタン、と乾いた音が部屋に響く。
まだ、彼女は僕の、許嫁なんだろうか。
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作者名:神川夏海 | 作成日時:2021年2月28日 22時