ク ズ と カ ス . 【赤葦京治】

ひ ページ7

茹だるような暑さの中、委員会のプリントを先生に渡すため職員室を目指す。


放課後のグラウンドからは運動部の掛け声や、生徒同士の笑い声が聞こえてくる。
あー暑い。

駆け足で行くと、結んでいた髪の毛がサラリと揺れた。





「赤葦ーちょっとこっちおいで！」



渡り廊下を歩いている途中、その名前を聞いてドキーンとし、足を止める。

横の体育館を見ると、マネージャーさんらしき女の人と、その前に座ってる赤葦が見えた。



ゆっくりとそちらへ近づき、体育館の外の壁に背中をつける。




「もー、手に違和感あるよね？そういうのはちゃんと言いなさい」

「すいません…突き指じゃないんで、大丈夫かなって」



申し訳ないと思いながら会話を聞く。

ごめんね、赤葦。それと、マネージャーさん。この人の事はなんでも知りたいんです。


謝る赤葦、というのが意外すぎてビックリする。

教室では食えない、いつでもしっかり者というイメージだけど、実は部活では違うのかもしれない。




「雀田さん、よく分かりましたね」

「あんた、怪我するとそこじっと見る癖あるからね」

「……知りませんでした」



ポンポンと続く会話を聞いて胸が苦しくなる。
何かがつっかえて息が上手くできない、みたいな。


私の知らない赤葦がいる。
そう思うと目の前が真っ暗になって、思わず唇を噛む。

あれ。私だって２年間一緒なはずなのに、赤葦のこと、よく考えたらなんにも知らない。




「木兎のお世話任せっきりにしてるからさ、他のことでは頼ってくださいよ」

「ははっ…お願いします」


「よし！」




爽やかな部活中の一角。

声を聞くだけで場面が想像できるほど、使い古された青春ドラマみたいな会話。


私が家にいる時、赤葦はこうしていろんな人達と関わっていってる。私は今まで、何してたんだろう。




「テーピング終わり…行ってらっしゃい、私たちの正セッターくん」


「はい、行ってきます」

「ん！」




もたれかかってる壁が冷たい。

さっきまで暑くてたまらなかったのに、今はなんだかすごく寒かった。


赤葦の好きな人は七瀬さん。
なら、1番仲がいい異性、くらいにはなれてると思っていた。




「……あんなん、勝てるわけない」





もしかしたらーー他にもっと、赤葦と仲良い女の子がいるのかもしれない。

あの笑顔は、私のものじゃない。




誰かほかの人に笑いかけてる赤葦が容易に想像出来た。


すうっと心が冷えて、考えるより先に走っていた。

か→←は

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す