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傷つけないように ページ29

「っ、はあ…っ急に、なに!」





人混みを抜けて、着いた所は小さな公園だった。

整わない呼吸を正常に戻すため、深呼吸を繰り返す。



前を向いたままの宮侑の息は乱れていなくて、体力の差を見せつけられたようだ。







「今は、言えん」


「はあっ!?」






いきなり連れ出しておいて、理由も言わないなんて。



勝手だと思う反面、あの祭りモードの中から抜け出せたことに、ほっとする。

あのままあそこにいたら、角名くんに会う可能性もあったのだ。



それだけは、避けたかった。







「もし言う時は、多分」


「…多分、なに」






続きを言うよう促す。

どれだけ経っても宮侑は口を開けないで、沈黙が流れた。




人ひとりいない静かな公園で、呼吸する音だけが響いている。それがなぜだか、とても心地よかった。









「…なんでもない」






沈黙を破った宮侑は、苦しげにそう言った。


風が吹いて、ブランコがキィと音を立てる。
小さい頃はブランコに揺られるのが好きだった。



今はもう何も感じない。大切だったはずの何かを、失っているような気がする。









「なんや、それ」






宮侑にだって、言いたくないことや言えないこと、あるだろう。


追及出来ないで、小さく呟いた。








「角名と、なんかあったんか」




真剣な顔をした宮侑と、目が合う。




ーーそうだ。

宮侑には、何も言っていなかった。



どうしてこんな事になってしまったのかを聞かずに、ずっと助けてくれていたんだ。





なんでこんなに、優しいんだろう。

そういえば、前に女の先輩に囲まれていた時も、何も言わず助けてくれた。




一体どうして、と聞きたかったけど、聞けなかった。聞いたらダメだと直感が告げる。









「角名くんと相崎先輩、付きおうてしまったかもしえん」


「…はあ!?」







今度は、宮侑が驚く番だった。


素っ頓狂な声を出した宮侑に、笑ってしまう。




さっきまで苦しくて死んでしまいそうだったのに、心が楽になる。

思えば、辛い時いつもそばに居てくれたのは宮侑だった。








「そんなこと、…あるわけ、ないやん」


「……酷いやつやなあ」







そんなこと。



そこで一度言葉を止めてしまった宮侑をみて、実感した。



きっと私を、傷つけないようにそう言ったんだろう。









なんて、残酷なことを言ってのけるんだろうか。






希望なんてないと言ってくれた方が、何倍もマシなのに。

抗えぬ→←「ごめんな」



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ruu - なんかもう、、いろんな感情が混ざり合って苦しくて苦しくて、、途中から大号泣でした、、笑 言葉選びがすごく素敵な作品で思わず感情移入しすぎてしまいました…素敵な作品ありがとうございました! (3月18日 5時) (レス) @page47 id: 0c6a3d0620 (このIDを非表示/違反報告)
fjkkork(プロフ) - 本当に少女漫画見てる気分になりました!号泣ものです。素敵な作品をありがとう‥ (2021年1月2日 19時) (レス) id: 2a56967181 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - うわーーーギュンッギュンした、、ツムと結ばれて欲しかった〜泣 (2020年11月13日 5時) (レス) id: e3a365bbc6 (このIDを非表示/違反報告)
かふぇおれ(プロフ) - ばーどさん» 恋愛の苦しさと楽しさを含めた作品にしたかったので、そう言って頂けてとても嬉しいです。ばーどさんが涙してくれたのなら、私も一緒に涙を流したいです笑 ここまで読んでいただいきそれと心温まるコメント、ありがとうございました! (2020年8月9日 19時) (レス) id: 8f8064a962 (このIDを非表示/違反報告)
かふぇおれ(プロフ) - ユノさん» 眉毛を下げる笑笑 とっても素敵な表現で、ぜひ小説で使いたくなりますね笑 ここまで読んでいただき、それと嬉しいコメント、ありがとうございました! (2020年8月9日 19時) (レス) id: 8f8064a962 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:かふぇおれ | 作成日時:2020年5月28日 17時

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