性悪双子に弱みを握られました。【稲荷崎】

もし、なんて言わないで ページ27

角名くんの名前を呼ぶと、宮侑の小刻みに動いていた手がピタリと止まる。




どうかしたんだろうか。

流れる涙は止まることを知らないで、頬を伝って地面にぽつりと落ちた。



それを見て、さっきの相崎先輩の涙を思い出す。

こんなのより、ずっときれいだった。









「そんなに、角名がええの？」






抱きしめられているので、顔は見えない。



動きの止まった手が私の頭の上に乗っていて、そこから少し宮侑が力んでるのがわかった。





宮侑は、緊張してる？

そりゃ目の前で友達が泣いてたら、びっくりするよね。









「他にもおるんやないん…お前のこと、好きなやつ」


「いないよ、そんな人」






普通に話す異性の友達なんて、ほとんど居ない。
宮くんたちと、角名くんくらい。



そんな私のことを見てくれてる人なんて、多分居ない。







「おるかもしれんやん」

「居ないんだって」





どうしてここまで食い下がるんだろう。




浴衣が重くて、肩がこる。

こんな浴衣も、来てこなければよかった。
恥ずかしいやつだ。




やっぱり、宮侑の顔は見えない。

優しい声だけが、彼がそこにいるというのを証明している。








「たとえば、俺とか」



「……え、」







驚いて顔を上げ、宮侑を見ようとしたら、手でぐいと胸板に押し付けられる。


いきが、くるしい。








「たとえば、やから。深く考えんでな」


「…たとえば、かあ」






一瞬宮侑が、本当に私のことを好いてくれているのかと思って、ドキッとした。


《たとえば》と聞いて、ほっとすると同時に胸に違和感ができる。おかしい。





もし、宮侑が私を好きだと言ったら。
その時私は、どうするんだろう。








「分からん、けど」





それでも、私はきっと角名くんじゃなきゃ、嫌なんだろうなあ。

なんでだろう。分からないけれど。







「もし、宮侑が私のことを好きで、私も宮侑のことが好きやったら」



「…おう」




「きっと、幸せやっただろうねえ」







その姿を思い浮かべて、あるはずのない想像をする。

お互い毒づきながら、でも楽しく過ごすんだろう。時には慰めあって、助け合って。








「もし、かあ」


「…なんて言った？」








上から、ぼそっと聞こえた音。



辺りはまだお祭りモードで、騒がしくてなんて言ったか聞こえない。







ようやく離された手に上をむくと、宮侑が困ったように笑っていた。

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