迷い ページ13
【千歳side】
辺りを包む荘厳な光が徐々に収まっていく。
自分から溢れ出る霊力が鎮まる感覚と同時に、俺はその場に膝をついた。
「千歳様!!」
ぱたぱたとこんのすけが駆け寄ってくる。心配そうにこちらを見上げるその耳はぺたんと垂れていた。
「あー、大丈夫大丈夫。...もふもふ〜」
こんのすけの頭を撫でると相変わらずもふもふしている。うちにアニマルセラピーがあって良かった。
「...あの、千歳様...Aさんは...」
そんな風に俺が癒されていると、こんのすけが不安げに瞳を揺らしながら問うてきた。その視線が向けられた先には、寝台に横たわるAがいる。
彼女の服は相変わらず血塗れだがもう出血はしておらず、顔色も青白かったが呼吸は安定していた。
...助かったのだ。
「大丈夫だよ」
「...!よかったぁ...」
頭を撫ぜながらそう伝えるとこんのすけは安心したのかぺしょんとその場に突っ伏し、黒豆のような目からぽろぽろと涙を零しながら安堵の表情を浮かべた。
そんなこんのすけに笑みが溢れた、その時。
「...お疲れ様です」
冷淡で、でもどこか強ばったその声に顔を上げると、同じように表情を強ばらせた木蓮が立っていた。
「...ああ」
"お疲れ"という言葉に、改めて手入れ部屋の窓から外を見やる。A達が帰還してきた時まだ茜色だった空は、すっかりその身を藍に染めていた。
...多分、あれから少なくとも三時間は経っているだろう。
「はあ...」
どっと押し寄せてきた倦怠感に座り込む。全身が鉛のように重かった。
...まあそりゃそうだろうな。三時間か、もしくはそれ以上、霊力ぶっ放し続けてたんだ。
「...」
本来手入れっていうのは、刀剣達の本体に霊力を込めた資材を用いて欠けた部分などを修復し、肉体にも俺の霊力を注げば、あとはそれが循環して時間が経つにつれて傷が癒えていくってものだ。
でも今回、Aは三時間ぶっ続けで霊力を注ぎ込まなければその循環に至らなかった。
刀身は通常通り手入れ出来た。でもAの肉体は、霊力を注ぎ込んだ瞬間、底の抜けたコップに水を注ぐように霊力が逃げていってしまったのだ。
まるで、生きることを拒むように。
「...なあ木蓮、残りの奴らは今何してるんだ?」
「...全員食堂に集まって...紫空切氷雪の話をしています」
そう、だよなぁ...。
なあ、A。
お前はまだ、生きることを諦めきれてないのか?
.
303人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
不透明どろっぷ。(プロフ) - 前回のやつと今回で涙腺が緩んで戻らなくなってしまいました(号泣) とても凝った話ですね! (2021年3月1日 22時) (レス) id: a7e7752e52 (このIDを非表示/違反報告)
ニャンコソバ2(プロフ) - 狩歌さん» やったぁぁ!!楽しみにしてますねっっ!! (2019年4月21日 20時) (レス) id: 5238a033a3 (このIDを非表示/違反報告)
狩歌(プロフ) - ニャンコソバ2さん» ニャンコソバさんこんにちは!ありがとうございます〜!楽しんでいただけたなら幸いです(*´∀`*)リクエスト了解しました!リア充させますよ〜! (2019年4月21日 9時) (レス) id: 8b0337ee0c (このIDを非表示/違反報告)
狩歌(プロフ) - しおねーさん» ありがとうございます!もうしばしお待ちください〜 (2019年4月21日 9時) (レス) id: 8b0337ee0c (このIDを非表示/違反報告)
ニャンコソバ2(プロフ) - お、お疲れさまでした…(?)貯めに貯めて、一気に読みましたところ、涙腺が見事に崩壊しました。笑堀川くんとリア充するやつ見てみたいです( (2019年4月21日 8時) (レス) id: 5238a033a3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:狩歌 | 作成日時:2019年2月18日 19時