もしかしたら最後かもしれないと ページ17
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食事の時と同じ席に腰を降ろした主さんの顔色は相変わらず青白い。
博多くん達が落ち着くまで自室で休んでいた主さんは、ここまで肩をかしてくれた長谷部さんに礼を述べてから、「さて」と僕らを見回して口を開いた。
「全員揃ったところで...まず第三部隊。突然帰還させて悪かった。無駄足になっちまった分はあとで埋め合わせするから許してくれ」
「んー、じゃあ酒!...と言いたい所だけど、状況が状況みたいだからね。仕方ないよ」
「代わりに今度の宴会で飲み比べしてもらおうかね」
「...おう」
次郎太刀さんと日本号さんの言葉に、主さんが少し複雑そうに、寂しそうに笑って頷く。
けれどすぐにその笑みを引き締め、主さんは僕らを見た。
「...次に、和泉守達」
柔らかい、でも何処か緊張を帯びた声で名を呼ばれた兼さんと僕達は、自然と背筋を伸ばして主さんに向き合う。
「今回の任務、明確な歴史改変の意図が分からず、尚且つ今までとは異なる特異な遡行軍との戦闘と色々と大変な任務だったと思う。...一先ず、誰も死なず帰還してくれて良かった」
「...」
誰も、死なず。
その言葉に兼さんが歯を食いしばる。
それを一瞥した主さんは、ゆっくりと息を吐いてから口を開いた。
「...Aの話をしよう」
「「!!」」
彼女の名前が出た瞬間、その場の全員が顔を上げる。僕らを真っすぐ見据えたまま、主さんは続けた。
「さっきも言ったが、Aは一先ず助かった。しばらくは絶対安静が必要だし未だ昏睡状態も続いてるから、あとは本人の気力次第だがな」
「...」
「...本当に、ギリギリだった」
「死ぬ寸前、だったがか」
「...ああ」
陸奥守さんの言葉に、主さんは苦しげに頷いた。
「もし部隊に薬研が居らずあそこまで適切な処置が出来ていなかったら。もしあと数刻でも遅れていたら。もし俺の霊力が並だったら。助からなかった。...本当に、ギリギリのところであいつは助かった」
「...っ」
血塗れだったAの姿を思い出す。
血が流れ出る度に、それはAの命が削られていることなのだと、改めて背筋が凍った。
「...なあ、」
主さんの、少し震えた声が聞こえた。
僕らを見つめる主さんのいつも痛いほど真っ直ぐな灰色が、鈍く鈍く揺れている。
それで、主さんが怯えているものが分かってしまった。
「お前らは...Aのこと、知りたいか」
僕らがこうして居られるのは、もしかしたら最後かもしれないと。
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不透明どろっぷ。(プロフ) - 前回のやつと今回で涙腺が緩んで戻らなくなってしまいました(号泣) とても凝った話ですね! (2021年3月1日 22時) (レス) id: a7e7752e52 (このIDを非表示/違反報告)
ニャンコソバ2(プロフ) - 狩歌さん» やったぁぁ!!楽しみにしてますねっっ!! (2019年4月21日 20時) (レス) id: 5238a033a3 (このIDを非表示/違反報告)
狩歌(プロフ) - ニャンコソバ2さん» ニャンコソバさんこんにちは!ありがとうございます〜!楽しんでいただけたなら幸いです(*´∀`*)リクエスト了解しました!リア充させますよ〜! (2019年4月21日 9時) (レス) id: 8b0337ee0c (このIDを非表示/違反報告)
狩歌(プロフ) - しおねーさん» ありがとうございます!もうしばしお待ちください〜 (2019年4月21日 9時) (レス) id: 8b0337ee0c (このIDを非表示/違反報告)
ニャンコソバ2(プロフ) - お、お疲れさまでした…(?)貯めに貯めて、一気に読みましたところ、涙腺が見事に崩壊しました。笑堀川くんとリア充するやつ見てみたいです( (2019年4月21日 8時) (レス) id: 5238a033a3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:狩歌 | 作成日時:2019年2月18日 19時