世界そのものの番狂わせ ページ37
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冬夜さんと真白さんが遡行軍の狙いだと、主さんは言った。
...どうして?
彼らは歴史上の著名な人物というわけではないのに、どうして。
襲いかかる遡行軍を殲滅しながら僕はそんなことを頭の片隅で考えて、それと同時に目の前の光景を理解することに必死だった。
「冬夜と真白が、中にいるがか...?」
震えた陸奥守さんの声が、僕の、僕達の心を代弁する。
あの一際大きく炎が立ち込める家屋はもう見る影も無いほど崩れかけてて、だからこそ気づけなかった。
あそこは、冬夜さん達が働く飯所だ。
「...っ」
燃え盛るあの炎の中に、冬夜さん達がまだいる。
中にいるなら助けなきゃ。
このままじゃ_
「...A殿...!」
Aを呼んだ切羽詰まった蜻蛉切さんの声に我に返る。
ふらりとした覚束無い足取りで、Aが数歩、前に出た。
Aはただ呆然と、燃え上がる炎を見上げている。
そこで僕は漸く、蜻蛉切さんがAの名を呼んだ理由に気づいた。
「A!」
「A、早うこっちに...!」
陸奥守さんも気づいたらしい。
...Aは、炎が苦手なんだ。
あんな小さなガスコンロの火で怯えていた程だ。こんな空まで燃え上がる炎、耐えられるはず...
「...A?」
震えるでもない。
苦しむでもない。
Aはただ、龍の如き猛り舞う炎を見上げていた。
一歩、二歩。またゆっくりと、ふらふらと業火に近づいて行く。
「あいつ何して...、っ!!」
様子のおかしいAを兼さんが引き留めようとした、その時。
僕らの横を疾風が通り過ぎる。
振り返り見たその正体は、
刀を大きく振り上げた、大太刀。
「A殿!!」
「っ!」
蜻蛉切さんの腹の底から発された声が空を震わす。
A目掛けて一直線に振り下ろされた刀に、ひゅ、と息が止まる。全てがゆっくりに見える。
間に、合わな__
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黒と赤の世界に、鮮やかな紫電が走った。
瞬間、大太刀の首が呆気なく胴体と切り離され、砂塵となって消えていく。
色を持たないそいつが、ぼんやりと浮かび上がる。
何処かで見たことのあるようなその後ろ姿に、
炎の中、何故か儚い雪の匂いがした。
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狩歌(プロフ) - 作者さん» 私も作者さんのコメントで大泣きしました。ありがとうございます...!! (2020年2月14日 8時) (レス) id: 8b0337ee0c (このIDを非表示/違反報告)
作者 - 大泣きした…もうやばい…語彙力低下した… (2020年2月14日 1時) (レス) id: 514b4bbba8 (このIDを非表示/違反報告)
狩歌(プロフ) - かふぇいんさん» 告白されちった(違う)。そんなこと言っていただけて感無量です。ありがとうございます!リクエスト了解しました!もうしばしお待ちください! (2019年2月10日 22時) (レス) id: 8b0337ee0c (このIDを非表示/違反報告)
かふぇいん(プロフ) - 連続でコメントすみません…!夢主ちゃんの質問コーナーみたいな茶番が見たいです。ぜひお願いします! (2019年2月10日 22時) (レス) id: 67bbfad4af (このIDを非表示/違反報告)
かふぇいん(プロフ) - すき。すきです。すきしかでてこないです。これからも心から応援してますッ…! (2019年2月10日 22時) (レス) id: 67bbfad4af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:狩歌 | 作成日時:2018年12月28日 13時