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ハンバーガーを食べる手を止めて、向かいに座るタキオンを見遣る。
なかなか手を付けないから体調でも悪いのかと心配したけれど、杞憂だったみたいだ。ハンバーガーに口をつけるたび嬉しそうに動くウマ耳が面白くて、つい見入ってしまう。
『…そういえばタキオンって、トレセン学園の生徒、なんだよね』
「そうだね」
『実は私、レース見るの好きなんだ。タキオンはもうデビューしてる？』
「まだだね。夏頃にデビュー戦に出る予定だよ」
『ほんと？ 私、絶対に観るね』
「ふふ、ありがとう」
スマホを取り出して、トレセン学園のホームページを開く。在籍生徒一覧の画面をしばらくスクロールして、“アグネスタキオン"の名前を見つけた。
『あ、ホームページに載ってる。そういえば、アグネスって… タキオンのお母さん、もしかしてすごい人？』
タ「まあ、世間的に言えば"すごい人"だね。確かに、母や祖母の成績は輝かしい物だと思うよ。おかげで、私まで大きな期待を寄せられている」
『やっぱりそうだよね。アグネス家って、聞き覚えあるもん』
デビュー前から期待を寄せられている。その言葉に、数年前の自分を思い出した。私も大手事務所の新人ということで、デビュー前から様々な場所で取り上げられていた。
デビュー曲のMVが公開される前日には、胃が痛くて何も喉を通らなかったっけ。
「早く食べないと、冷めてしまうよ」
物思いにふける私に、タキオンが微笑む。
未だにSNSのコメントに怯えている私とは違って、タキオンは至って落ち着いている。
なんだか、彼女はすごい事をしそうだ。
『私、タキオンのこと応援してるね』
目の前の美しいウマ娘の競争人生が、何にも脅かされない順調なものであってほしい。
タキオンに対する期待や興味といった思いが、あぶくのように湧いて出てくる。
ひそかに胸を膨らませながら、スマホをしまった。
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作者名：winter | 作成日時：2022年11月6日 9時
