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side ; Tachyon
「それでは、ステージの準備も整ったみたいですね！ ur girlsで、I'm into youです。どうぞ！」
暗転したステージに、Aのシルエットが浮かぶ。
「これは君のための歌だよ。ねえ、気付いて、I'm into you…」
Aの透き通った歌声が、耳をスッと通り抜ける。
出だしのパートはセンターである彼女が担当しているようだ。
本当に恋をしているかのような、儚い表情で歌う。
雨上がりの朝を想起させるような透明な歌声は、まさに"甘酸っぱい恋愛"を歌うのにぴったりだ。
ダンスも、シンプルな振り付けに見えて細かいアレンジが効いている。
激しいダンスをしながら歌うのは、ウマドルの専売特許。そんな私の中の常識が、一瞬にして崩れ去った。
むしろ、レベルの高いダンスにも関わらず息切れひとつせず音源と遜色ない歌声を披露する彼女たちには、ウマドル以上の安定感がある。
「
「
最後のサビで、Aの顔がアップで切り抜かれる。
カメラを見据えてふんわりと微笑む彼女の瞳に捉えられて、目が離せない。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
気付けば曲は終わって、歓声とともにAはステージから退場した。
たった3分半の曲が、まるで完成度の高いドラマのようだった。充足感にため息が盛れる。
誰かの歌声にこんなに夢中になったのは初めてだ。
「はあ、今日も推しが可愛すぎる〜…！！ タキオンさんっ、ふーちゃんのパフォーマンスはどうでしたか？」
『すごかった。すごく…良かったよ』
「タキオンさんがそう言うなんて、珍しい…！ 推しが推しを推す世界線、尊すぎるっ……」
「そうだっ、ふーちゃんのこのフォトカード、タキオンさんに差し上げます！ この機会にぜひ、ur girlsの沼にハマりましょう！！」
デジタル君から手渡されたフォトカードを、しまうところもないのでスマホケースに挟む。
隣でAについて語るデジタル君に相槌を打ちながら、ウマスタで"文月A"と検索する。
たくさんのタグやファンページがヒットする。一番上に出てきたのが彼女のアカウントだろう。
開いてみれば、既に楽屋で撮ったであろう自撮りと共に先程の番組に対するコメントが投稿されていた。
アカウントをフォローして、いいねをして…コメントを送れば、彼女は気付くだろうか。
何度か入力して消してを繰り返した後、なんとも無難な感想を送信した。
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作者名：winter | 作成日時：2022年11月6日 9時
