あなたを取り巻くもの ページ46
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『…何これ』
1日の終わり、自室で過ごすリラックスタイム。
SNSをチェックしようと画面をタップした私の指が、ぴくりと震えた。
画面に映し出されていたのは、大好きなひとの写真と、書き手の悪意をたっぷり感じられる文章。
投稿主は、雑誌出版社が運営するニュースサイトの公式アカウントだ。
引き寄せられるように、ニュースサイトへのリンクをタップした。
・・・
『…はあ』
冗長な文章を読み進める度にため息が漏れ、逆立った尻尾が苛立ちを含んでゆらりと揺れる。
記事の内容は、タキオン先輩が月桂杯への出走を辞退するというもの。
記事の端々に責任感が〜、何を考えているのか〜と、下らないひと言が付け足されている。
下らない。本当に。タキオン先輩のこと、何も分かっていないくせに。あのひとの性格や信念なんて、知ろうとした事もないくせに。
こんな事に時間を使うのは無駄だと分かっているけれど、好きな人を悪く言われたら誰だって気分が悪くなるものだ。
スマホを投げ出すようにベッドの上に置き、紅茶でも飲もうと立ち上がった。
・・・
♪
お気に入りのカップに紅茶を淹れて戻ってくると、軽快な音楽が流れていた。
音の源は、私のスマホ。画面には、大好きな名前が表示されている。
急いで手に取り、応答ボタンを押した。
『…はい、もしもしっ』
タ「もしもし。夜遅くにすまないね」
『いえ、お気になさらず！』
タ「ふふ、元気だねえ」
『えへへ、夏休み満喫してますから。先輩は、何か用でしたか？』
いつもより少し甘い気がする、先輩の声。
久しぶりに聞くそれは私の耳に優しく響いて、心が溶けてゆくような感じがした。
タ「今、砂浜を散歩しているんだけどね。星がよく見えるから、君に見せようと思ったんだ。そっちは、星は出ているかい？」
『んー…見えないですね。月は出てるんですけど』
タ「…じゃあ、一緒に見ようか」
画面が切り替わる。先輩がビデオ通話にしたようだ。
『わあ…！』
映し出された空一面に、星が瞬いている。都会では決して見れない、お砂糖の粒を散らしたような夜空。
あまりにも美しい光景に、ため息が漏れた。
次に続きます
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作者名：winter | 作成日時：2022年8月13日 2時
