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柔らかいソファに体重を預ける。室内に満ちた先輩の匂いに、何とも言えない安心感を覚えた。
タ「…それで、悪夢というのは？」
『………』
タ「Aくん？言いたくなければ無理に言う必要も無いが…」
『…先輩が、』
タ「…」
急かすことはせず、冷えきった私の指先をただギュっと握ってくれる先輩。
躊躇いながらも、言葉を紡ぐ。
『先輩が走れなくなる夢を見たんです。脚が…ガラスみたいにぼろぼろって崩れて』
タ「…！」
先輩が目を見開く。
『先輩の苦しそうな声とか、悲しそうな顔がやけにリアルで…夢だって割り切ることができなくて…不安になって、会いに来ちゃったんです』
『…先輩は、居なくなったりしませんよね』
タ「…」
否定してほしくて投げた問いかけには返事がない。
虚ろな瞳をした夢の中の先輩を思い出して、手が震えた。
『…先輩？』
タ「…！ああ、すまないね。予想していたのと違って、少し驚いただけだよ」
タ「そんなに心配しなくても、私はこれからも走るつもりでいるよ。この脚が保つ限りはね…」
『…そう、ですよね。そもそも、あんなに危なげなく勝ってる先輩がレースをやめるだなんて、そんなことある筈無いですよね』
『急に押し掛けて、縁起でもないこと言って、ごめんなさい。私、先輩といつか一緒にレースに出たいんです。…絶対、置いていかないでくださいね』
タ「…勿論だとも」
眉を下げて困ったように微笑む先輩は、どこか哀しげに見えた。
・・・
『あっ、もうすぐ朝礼だ…。私、そろそろお暇しますね』
タ「ああ、行ってらっしゃい」
『…先輩は授業出ないですか？』
タ「ふふ、考えておくよ」
『…もう。行ってきます』
夢の話をした後は、紅茶を飲んだり、雑談したりして、いつも通りに過ごした。
先輩が哀しそうに見えたのは、私の勝手な勘違いだったのだろう。
研究室を出て、明るい光の差す廊下を歩きだした。
+++
「…彼女にプランBの話をしたことなんてあったかな。偶然にしては、タイミングの良すぎる夢だ」
「置いていかないで、か。せっかく覚悟を決めたというのに…。困ったねえ」
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作者名：winter | 作成日時：2022年8月13日 2時
