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『…嫌じゃ、ないんですけど。私もう口つけちゃいましたし、先輩こそ嫌じゃないですか？』
私の言葉に先輩がぱちくりと目を開いたかと思うと、おかしそうにけらけらと笑いだした。
タ「ふふ、嫌ならひとくち欲しいなんて言うわけないじゃないか！君は本当に可愛いことを言うねえ」
笑いだした先輩に少しむくれつつも、それもそうだなと納得する。
『…じゃあ、どうぞ』
かけらが床にこぼれないよう、ドーナツを持つ手の下にお皿を添えて先輩に差し出す。
先輩が私の方にずい、と体を寄せた。
タ「頂くよ」
そう言うと、先輩はお皿を受け取るでもなく、私の手を掴んでドーナツを齧った。
間近にある先輩の少し伏した目に、視線が釘付けになる。呑み込まれそうな朱い瞳に、栗色の長いまつ毛が映えてなんとも美しい。
タ「…ん、美味しいね。話題になるだけのことはある」
唇についたドーナツのかけらをぺろりと舐めながら顔をあげる先輩。
ついさっきまで釘付けになっていた朱い瞳が、私の口元を捉えた。
タ「…きみの唇」
『ひえっ』
先輩の細長い人差し指が、私の唇をなぞる。
朱い瞳に映った紅い唇は、ふるふると震えている。
しばらくぼうっと私のことを見つめていた先輩が、我に帰ったように手を離した。
タ「リップ、変えたのかい？」
『えっ、あ、変えました』
タ「いちごと同じ、美味しそうな色だね。…よく似合っているよ」
『ありがとうございます…』
ばくばくと心臓が跳ねる。上手く言い表せないけれど…食べられてしまうかと思った。
『…あ、そうだ。勉強もしないとですよね』
心臓を落ち着かせるように胸を撫でて、本棚から問題集を取り出す。
そもそも今日は、勉強を教えてもらうために来てもらったんだった。
タ「真面目だねえ。この前言ってた分からない問題というのは？」
『これです。解説が載ってないから、よく分からなくて』
タ「ああ、これはこの公式を使って…」
『…できた』
タ「君は中々飲み込みが早いね。こんな問題、授業でもやらないだろう？」
『ふふ、ありがとうございます』
先輩に褒められて、気分が上がる。ペンを握る手の動きが、ますます速くなった。
次に続きます
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作者名：winter | 作成日時：2022年8月13日 2時
