ドーナツの穴 ページ29
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コンコン
扉を叩く音に、耳がぴくりと反応する。ぱたぱたと駆け足で扉を開けて、タキオン先輩を中に招き入れた。
タ「可愛い部屋だねえ」
きょろきょろと室内を見回した先輩が、くすりと笑う。
『…子供っぽくないですか？』
フリル付きの寝具やぬいぐるみが、大人っぽい先輩の前では何だか恥ずかしく思えて、両手をきゅっと握った。
タ「ふふ。君の可愛らしいところ、私は好きだよ」
『すっ…！？』
好きという言葉に、思わず変な声が出る。先輩は私に対してすぐこういう事をするけれど、無意識なのかな…
タ「そうだ、これ。最近流行っているらしいから、買ってきたよ。一緒に食べようか」
『これ、ウマスタでバズってたお店のですよね！？嬉しい…！』
先輩に見せられた袋は、最近話題のドーナツ屋さんのものだった。
どうぞ座ってくださいと声を掛けて、お茶を準備する。
ドーナツの袋を開けた先輩のほうから、ふわっと甘い香りが漂った。
タ「好きなのをお食べ」
『…じゃあ、これを頂きます』
色とりどりのドーナツに、目移りする。どれも美味しそうだけれど、1番目を惹かれたいちごのドーナツを選んだ。
紅茶を注いで、いただきます、と手を合わせる。
ひとくちドーナツを口に含むと、いちごの甘酸っぱさが広がった。中にはいちごのクリームも入っている。
『おいしい…！』
タ「喜んでくれて嬉しいよ」
『本当に、いくらでも食べれそうなくらい美味しいです！このお店、いつも行列ですよね？』
タ「ああ、随分と並んでいたねえ」
『もしかして、わざわざ並んで買ってきてくださったんですか？』
タ「まあね」
先輩が涼しい顔をして紅茶を啜る。私のためにわざわざ時間をかけて買ってきてくれたことが堪らなく嬉しくて、胸がじんと熱くなる。
『私のために、ありがとうございます！味わって食べますね』
タ「ふふ、そうしておくれ」
ドーナツを囓っている私の頭を、先輩が優しく撫でてくれる。端正な形の温かい手に、うっとりしながらドーナツを満喫していると、声をかけられた。
タ「ふぅン…その味も美味しそうだね。ひとくち貰ってもいいかな？」
『えっ』
びっくりして、手を止める。先輩にケーキを食べさせてもらったことはあるけれど、流石に食べかけのドーナツは…
タ「…嫌かな？」
可愛らしく眉を下げ、耳をへにゃんと曲げる先輩。
『…嫌じゃ、ないんですけど。私もう口つけちゃいましたし、先輩こそ嫌じゃないですか？』
続きます
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作者名：winter | 作成日時：2022年8月13日 2時
