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トレ「普段は自分でしてるんだけどね。今日はほら、タキオンちゃんが来てるから、ばっちり可愛くしてほしいって」
『ちょっとトレーナー！それは言わないでくださいよ…！』
トレ「あ、ごめんね。Aちゃんが可愛くてつい」
私の顔にファンデーションを塗りながら話すトレーナーを睨むと、調子のいい事を言って誤魔化された。
タ「へぇ…」
先輩が来るだけで張り切りすぎだって、笑われちゃったかな。
不安に思い、鏡越しに先輩の顔を見ると、その頬は少し赤らんでいた。
びっくりして、目を見開く。普段涼しい顔をしている先輩が、照れて顔を赤くするなんて。
可愛い…
かっこいい先輩の珍しい一面が見れたことが嬉しくて、つい凝視してしまった。
・・・
トレ「できたよ。うーん、我ながら可愛い！」
私が先輩に見惚れてぼーっとしている間にメイクが終わったようだ。トレーナーがかちゃかちゃとメイク道具を仕舞いだす。
トレ「私、ライブのことでちょっと用事があるから出るね。髪の毛は自分でセットできるよね？」
『できます。行ってらっしゃい』
レース後はウマ娘以上にトレーナーが忙しいらしく、慌ただしく部屋を出て行った。
・・・
『それでこの前、カフェ先輩が…』
「ライブ30分前です！Aさん、そろそろ会場までお願いします」
『あっ、はい！』
髪のセットも終わり、先輩と談笑しているうちにあっという間に時間が経ち、扉越しにスタッフさんに声をかけられた。
『それじゃあ、行ってきますね』
手が震える。歌もダンスも十分すぎるくらい練習したけれど、やっぱりライブ前の緊張感には勝てない。
タ「行ってらっしゃい。応援しているから、頑張っておいで」
『…』
聞こえてきた先輩の声に後ろ髪を引かれるような気持ちになり、ドアノブを引こうとした手を下げてしまった。
タ「…行かないのかい？」
『ごめんなさい…緊張しちゃって。しっかりしなくちゃ。行ってきますね』
ぎこちなく微笑み、今度こそ部屋を出ようと震える手でドアノブに触れると、後ろからふわっと紅茶のような香りが漂った。
タキオン先輩に、抱きしめられた。
理解して、あまりの驚きに体が固まる。静寂に、どくどくとうるさい私の心臓の音だけが響く。
しばらく肩に埋められていた先輩の顔が私の顔を覗き込むように近付き、手はその震えを止めるかのように握られた。
次に続きます
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作者名：winter | 作成日時：2022年8月13日 2時
