犬畜生めに成り下がった体名 ページ8
小春日和の生暖かい風が頬をくすぐる。
クラスメイトは私だけの特別講師。
隣で参考書を読む君はどんな顔をしてるかな、時々目があって、「集中しなよ」と怒られて。
隣り合った机の上を走るペンの音が心地よい。
頑張ったんだ、褒めてくれるかな。
「うん、出来てるよ。よく頑張ったね」
なんて君が優しく笑うから、意図せず熱を持った頬を手で隠す。
そんな私の行動にクスリと微笑み、小さく呟く。
(…可愛いね)
嗚呼、なんて青春、これぞ青春。
そんな青春を期待していた時期が、私にもありました。
「…小学生から、やり直したほうがいいんじゃない?」
「うぅ、返す言葉もございません…」
呆れて物が言えない夏油に項垂れるA。
先程のような甘酸っぱい展開になるはずもなく、積み重なったプリントは未だ一枚も消費されていない。
ある契約から始まった、スパルタ夏油の短期集中型レッスン。
まずは出されたプリントを一度解いてみろ、と机に向かわせたのはいいが、この少女。とにかく頭の出来が悪い。
大問一の計算問題から手詰まりであった。
真逆ここまでとは、誰も予測できないだろう。本人でさえ、ショックを受けているのだから。
こんな事なら安い言葉に乗らなければよかったなと夏油は内心、独り言つ。
その言葉とは、契約とは何なのか、時は数十分前に遡る。
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「仮に君を手伝ったとして、私への利点はあるのかな」
与えられたのは天からの救いの託宣などではなかった。
言うなればそう、悪魔の気散じな戯言だ。
「そこを何とか…!!お願いします!!“なんでも”しますから!!」
人並みではないにしても、それなりの自尊心を持っていたAはたった今、それを投げ捨てた。
ここに来て最終奥義である「なんでもする」を発動。
これに惹かれない男、ましてや健全な男子高校生はいないだろう。
現に、目の前の少年も目を見開き、肩を揺らしていた。
「今、なんでもするって言った?」
「もちろんですとも!!女にも二言はありません!!」
夏油は、余裕綽々とした表情で黒い笑みを口元に蓄えた。
「わかった、いいよ」
当然、地獄はこれからである。
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作者名:慎 | 作成日時:2023年1月9日 20時