6.生きたい ページ7
6月25日。私は久々に実家に帰った。母に話したいことがあって有給を取ったのだ。
私たちは父を亡くしてから屋敷を捨て、高専に入るまではアパートで2人暮らしをしていた。
私は昨夜の大雨で熱を出した道路の上を歩き、アパートへと向かう。やはり懐かしい景色には哀愁が漂う。
ピーンポーン…
「おかえりなさい、A!」
「…ただいま!」
いつもと変わらない母に出迎えられ、リビングの隅にあるソファに招かれる。暖かいココアを受け取り、隣に母が座る。
今までずっと黙っていた。母に失望されるのが怖かった。それを今日、言うんだ。
「私がその子を...友達を殺したの。お父さんも」
カチ、カチ、カチ。
リビングの中心に飾られた木目調の時計。
その秒針は、緊迫した空気を煽るように刻々と音を刻み続ける。
「縛りを脱した罪として…あれから毎日、お父さんの呪いが私の呪力を吸い取っては成長してる」
両手で包んだコップの熱がだんだんと冷めていくのが怖い。私はずっとその熱を感じていたくて、まだ表面が熱いコップを更に温めようと強く握った。
母は言った。
「お父さんは死んでないわ。今も私たちの中で生きているもの」
いつも見る母の穏やかな顔が、そこにあった。
「どうして…やさしくしてくれるの?」
そうだ。私は知っている。あなたは何度も父を呪おうとしていたのに、刀を振り下ろすことはできないまま、今もその小さな肩で家族の罪を背負っていることを。
「…わ、私…のこと、嫌いにならないの?」
でもそれは決して、弱さや義務感からではない。
「何言ってるのよ。あなたを嫌いになっちゃったら、私はどうやって生きればいいの?」
私と父を、愛しているからだ。
「ッ、ああああああ!!」
大声で泣いたのはいつぶりだろう。私はコップを机に置いて、その胸に飛び込んだ。
母が私を抱きしめる。強く、強く。
「お母さんも罪を背負って生きるよ。絶対に1人にはさせない」
確かにあの人の言う通り、呪術師は自分の罪に目を逸らす時がある。
だからこそ私たちは、指標や道徳や倫理観が少しずつズレていくこの世界で、毎日己の輪郭をなぞってはさ迷うのだ。
私たちはいつも、そんな曖昧な瀬戸際で何とか生きている。
…だからもし、「この目で見る世界は確かに本物なんだ」という叫びが誰かに届いたのなら。
「一緒に生きよう、A」
「ゔん…ッ!生ぎだい"…!!」
それ以上の喜びはないのだ。
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tomishiro(プロフ) - 佝僂さん» はわー!?とっても嬉しいです!おかげで頑張れそうです!ありがとうございます! (2022年7月13日 11時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
佝僂(プロフ) - めっちゃ面白いです!!!更新頑張ってください!! (2022年7月13日 10時) (レス) @page12 id: 1c770a8388 (このIDを非表示/違反報告)
tomishiro(プロフ) - ぜひ評価の方もよろしくお願い致します! (2022年7月13日 9時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とみしろ | 作成日時:2022年7月7日 20時