35.異能 ページ36
「呪詛師を倒してどうだった?」
人気のない山奥の桟橋。葉擦れと虫が私たちを噂している。私は少しどもった後、重い口を開いた。
「_____120人を殺めた呪詛師を父に持つ私に、彼らを批難する権利はありません。…ただ。怒りの矛先を彼らに向け、確かに討った。その事実は術師として誇りに思います。あの家族を助けられて本当に良かった。でも。」
欄干に手を付き、見慣れた街を眺めた。この景色を見てミアさんは何を思ったのだろう。
「どうして世界はこんなにも、不自由なんでしょうか」
ギリ、と握力を強める。それだけで塗装が卵の殻のようにひび割れ、剥がれ落ちたソレが闇に溶けた。
「この世界では、
どちらも根本は同じなはず。私たちは同じ血肉で生きているのだから。」
分かっている。それがこの世界だ。何千年も積み重ねた結果だ。この長い歴史を変えるには、あと命がいくつあっても足りない。
「…呪いさえなければ、この戦いに終わりがあれば、彼女はあんな顔をしなかった。」
自由でありたい。どんな想いも呪いにならない世界で生きたい。
⬛︎⬛︎さんは私の隣で欄干に凭れた。
「どうして私がAを推しているか分かる?」
腕の中に埋もれた頭を起こして彼女の横顔を見つめる。拭えない涙を目に溜めた私は、それを零さないよう必死に我慢した。
「君には特別な力があるからだ。
例えば、「物質化・非物質化」。そして、それを見る八眼。
それらは術式でもなければ呪力でもない未知の力。私は
「それだけじゃない。怒りを源にした膨大な呪力量、呪いの胎児、両面宿儺から派生した術式…。これだけの謎を握る君は、どうしても高専に入れておきたかった。だから私は君の父親の過去を隠蔽したんだよ。」
切り出されたその話は、私を慰めるものではないと静かに理解する。彼女は続けて言った。
「正直なところ、君を留学させたのは異能を観察するためでもあった。特に八眼をね。」
「!まさか、昨日の事件はあなたが仕組んで…!」
「いいや。でも予想はしていた。」
「酷い…2人は九死に一生を得たんですよ!なぜそこまでして!」
そう言って⬛︎⬛︎さんの顔を見た時、私は妙な恐怖を感じた。
普段の茶化した空気は何処吹く風。
彼女は、気迫のない寧ろ無気力な面立ちで、遥か彼方を見据えていた。
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tomishiro(プロフ) - 佝僂さん» はわー!?とっても嬉しいです!おかげで頑張れそうです!ありがとうございます! (2022年7月13日 11時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
佝僂(プロフ) - めっちゃ面白いです!!!更新頑張ってください!! (2022年7月13日 10時) (レス) @page12 id: 1c770a8388 (このIDを非表示/違反報告)
tomishiro(プロフ) - ぜひ評価の方もよろしくお願い致します! (2022年7月13日 9時) (レス) id: 5a85062d9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とみしろ | 作成日時:2022年7月7日 20時