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釣りはいーから、と、運賃の倍以上ある紙幣を一枚ポンっと出し、楽しそうにタクシーを降りる
思わぬチップに運転手さんは、ありがとうございました、と丁寧に頭を下げた
「ホ、ホントに行くんですか…？」
ドーン！と構えるその建物は、上から見下ろすように威圧的で、その外観のイメージから、勝手にひろみさんを想像してしまう
白いワイシャツに、黒いタイトスカート
髪はきっちりまとめてあって、シャープな眼鏡を掛けていて…
だけど、夜になると髪をほどきワイシャツのボタンが２〜３個多く外されて……
ダメだ、勝てる気がしない……
「大野さん、やっぱりあたし…」
通常勤務は終了している時間だ
本来なら受付嬢が座っている場所には誰も居らず、代わりに強面の警備員が二人立っているけれど、
彼はそれを顔パスで通過して、慣れた手つきでエレベーターのボタンを押した
大「びびってんの？笑」
「び、びびりますよ、そりゃあ！」
大「あたしは大野智の本妻です、愛人なんかにゃ負けませんーって顔してろよ。笑」
「愛人……やっぱり……」
こんな才能のある人が、あたしなんかと本気で付き合うわけないじゃないか
分かりきったことなのに
今更なのに
本当にそうなのか、と実感すると、なんだか泣けてくる
悔しさなのか、
悲しさなのかは
よくわからないけれど……
大「お、着いた。」
エレベーターから降りた彼は、迷うことなくフロアを進み、まだ大勢残っている社員さんたちに向かって、「ひろみいる？」と尋ねた
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作者名：紗愛(サラ) | 作成日時：2014年2月7日 10時
