#026 隠密 ページ26
エースと顔を全く会わさなくなって、数日。
どうやら、周りの人間もエースとの関係がぎこちなくなっていることに気付いたらしい。
「Aちゃんさ…何かあった？」
夜、ほっと息をついていると…サッチがブラックコーヒーをAに出した。
他のナース達や、船員達がにもブラックを飲む者はおらず、中々渋いなとサッチは思っていた。
「…エースのことですよね。」
「あぁ。ケンカとかじゃないんだよな？」
こくりと頷き、コーヒーを口にする。
長い睫毛がゆっくりと揺れるのが見えた。本当に透き通るような、いや透き通っている肌は今にも消えそうなくらいだ。
つい、見惚れてしまいAに名前を呼ばれ我に帰る。
「わ、悪ィ悪ィ！」
「もう、夜遅いですから。そろそろ部屋に戻りますね。」
いつの間にか空になっていたコップ。
立ち上がり、コップを洗おうとするAをサッチは止めた。
「オレがやっておくよ。ほら、体冷えるから部屋に帰っときな。」
「サッチさんこそ、疲れているようですから。」
「いーのいーの！」
半ば強引でサッチは、食堂からAを追い出した。
ありがとうございます、と礼をしたAの表情は、どこか申し訳なさそうで。
流しで、まだコーヒーの暖かさが残っているコップを洗う。_____サッチは気付いていたのだ。
外に、誰かの気配があった事を。
…それが誰かも、分かっていた。
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次の島への到着を控えた、早朝。
白ひげはAを呼び出した。部屋の中での様子は分からない。ただ、いつもの掃除用の服ではなかった。船員達が見た事のない服装のA。
普段の様子とは違うのに気付いたイゾウは声をかけた。それは遠回しなピンポイントな質問で。
「何か隠してるだろ？」
イゾウは個人的には良い人だと思っている。おそらく、私が”屍食鬼”だと知っているだろう。けれどそれを黙ってくれている…この人なら話してもいいだろうか。
「父親を探しに行こうと思っています。」
「…！当てはあるのか？」
美しい顔を歪ませて問いかけるイゾウ。
「…ありません。けれど、会わなければいけないんです。」
___何故、この世界にいるのか。
___今まで何をしていたのか。
___母はどうして、死んだのか。
「そうか。」
そう言ったきり、黙ってしまったイゾウに一礼し部屋に戻った。
あと数時間で、この船とさよならだ。
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作者名：色葉怜 | 作者ホームページ：http://uranai
作成日時：2015年10月17日 19時
