51 そうじゃなくて ページ10
わたしの反論に何か言いかけたユンギさんは、その言葉を喉の奥に押し込めて、ぐしゃぐしゃと乱雑に前髪をかいた。
「違う⋯⋯言い合いがしたい訳じゃない。気付けなかったの、申し訳ないと思う。自分のことで手一杯で。ただ、頼って欲しかったんだ。他の男にじゃなく。おれに。分かってる。自分のせいでお前に何も言えなくさせたのは。分かってるんだよ。」
苦しそうだった。
きっとユンギさんもわたしが目を覚さない間、心配してくれていたはずで、きっと今気持ちがゴチャゴチャなのかもしれない。
そんな彼に、こんなふうに反論するのが果たして正解なのか、分からなくなってくる。
「でも、だから努力した、時間があれば顔を見せに帰ったし、連絡だってまめにした。言葉でも意識して伝えたつもりだ。⋯⋯Aにも変わって欲しかった。おれたちがまた前みたいに戻れるように」
ユンギさんの声は切実だった。
震えていて、今にも泣き出しそうで。
今度はわたしが言葉に詰まって、自分の握った左手に視線を移して、気がつく。
「ユンギさん、わたしの指輪は⋯⋯⋯」
「そこの棚にしまってある。なあ、A」
その言葉に思わずほっとしたのも束の間。ユンギさんがわたしの頬を触れ、ユンギさんに向き直らせると、今日初めて。ちゃんと目が合う。
そして、スローモーションのようにユンギさんの唇が、動く。
「結婚しよう、おれ達」
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苺あめ(プロフ) - 毎回楽しみでした。彼女とユンギの出会いが気になりました。一度無くした信頼はなかなか取り戻せないですよね。でも『続く』ってなってたので、また物語が始まるのを期待してます。 (2月7日 11時) (レス) @page20 id: 3780d68ff4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろい | 作成日時:2024年1月19日 22時