50 気づかないこと ページ9
「家にあった処方薬も見た。そんなに追い詰められてだなんて知らなかった。バイト中に倒れた話も。」
全身からひゅっと。血の気が引く。ばれた。
そうだ。他に人は入らないからと薬の袋をそのまま机に出しっぱなしにしていた。
ここで「ごめんなさい」といつものわたしだったら謝ったのかもしれない。
でも。
「知らなかった⋯⋯? あの頃わたし、ご飯が食べれなくて5キロ痩せたんです。バイト先の人たちはわたしが倒れる前からちゃんとご飯を食べてるか、心配して声をかけてくれるくらいだった。なのにユンギさんは、そんなことにも気づきませんでしたか?」
「⋯⋯言われなかったから気づかなかったおれが悪いって言いたいのか? それはキムジョンユと比べてんの?」
うまく舌は回っていなかった。
ユンギさんと言い合うなんて、初めてだった。ぎゅっと布団の上で握った拳に力が入る。
もう、2年も付き合っていたのに。こんなことくらいに、ものすごく勇気がいる。
どちらが少し不満をぶつけても、それに反論することなんてなかった。どちらも事勿れ主義で。
「分かった」「ごめん」「自分が悪かった」それでいつも話は終わった。
「そう言うわけじゃないです。聞いてくれたのは1人だけじゃなかったですし。」
もちろんジョンユくんも「最近痩せましたか?」と心配そうに声をかけてきたけど、店長や、パートさんも「ちゃんと食べてる?」「まかない今日もいらないの? 痩せすぎてる」
優しさに、逆に心が痛かった時期だった。
「でもそのくらい気づくタイミングも、言わずとも見た目に見える変化も、あったんです。恋人が病的に痩せて、ただの仕事仲間が分かるような変化にも何も感じない恋人にそれ以上かけられる言葉がありますか?」
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苺あめ(プロフ) - 毎回楽しみでした。彼女とユンギの出会いが気になりました。一度無くした信頼はなかなか取り戻せないですよね。でも『続く』ってなってたので、また物語が始まるのを期待してます。 (2月7日 11時) (レス) @page20 id: 3780d68ff4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろい | 作成日時:2024年1月19日 22時