47 素直 ページ6
幼い“わたし”がきっ、とわたしを睨む。
「⋯⋯」
手を差し出せば、その小さな体が揺れた。
「怖くないよ。おいで」
おそるおそる、近づいて来る。素直な自分だ。警戒心がなくて。純粋な。
体を引き寄せ、瓶ごと、抱きしめる。
「辛かったね。悲しかったね。
未来が見れてすごいねって、言って欲しかったんだよね。ミンソなら一緒にすごいじゃん!って盛り上がってくらるかもって。
もう学校では、友達には、わたしって言ってたのに。オンマの前では、子供のままでいたかったよね。
絵だって、オタクだって馬鹿にされるんじゃなくて、上手って。褒めてもらいたかったね。
もっとわたしが努力して、分かってもらうよう話せたら、諦めなかったら、死ななくて済んだのに」
ごめんね。
熱は感じなかった。きっと、もう、亡くなっているから。
ただ、彼女の胸に抱えた瓶だけが、ひんやりと。つめたかった。
「⋯⋯うん、そうなの。かなしかった」
素直だ。「悲しい」「苦しい」「寂しい」「お前が憎い」って。
いつからわたしは、この素直さを亡くしたのだろうか。
もうあの頃のわたしは、わたしの殺してしまったわたしはいないかもしれない。
でも、思い出すことくらいは、努力することくらいは、できるかもしれないから。
「わたし、もうちょっと頑張ってみてもいいかな。今回は、まだ。諦めたくないんだ」
端から見た選択が、綺麗事が、理想が、いつも正しい方向に傾くかは分からない。
いつか、この選択を、悔やんだとしても。
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苺あめ(プロフ) - 毎回楽しみでした。彼女とユンギの出会いが気になりました。一度無くした信頼はなかなか取り戻せないですよね。でも『続く』ってなってたので、また物語が始まるのを期待してます。 (2月7日 11時) (レス) @page20 id: 3780d68ff4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろい | 作成日時:2024年1月19日 22時