57 破片 ページ16
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「これ、返します。」
ユンギさんの言った通りの場所に、指輪は入れてあった。
「もう、いらないので」
友達が、なんて言っていたかな。有名なブランドの指輪らしい。すごく高いんだと。「羨ましい〜やっぱり社会人の彼氏っていいよね」
差し出した指輪に、ユンギさんは「もうゴミだよ。いらなきゃ捨てろ」と。鼻をすすりながら言う。
ゴミか。そうか。ゴミになっちゃったんだ。
「けど、高価なものなんですよね? わたしにはできません。」
ユンギさんの手を取って、スマホの代わりに握らせる。
「出て行って」
何度目かのわたしの言葉でよろりとユンギさんは立ち上がった。
そして、乱暴にゴミ箱に指輪を投げつけるように放った。
その音にびくりと体が跳ねる。
「ずっと愛してる、おれも。傷付けて本当にごめん」
手の甲で涙を拭いながら、もうわたしには顔を見せないよう少しふらつきながら、ユンギさんが病室から出ていく。
「行かないで」
その背中に、そう声を掛けたくて。でも、押し殺した。
心臓が、グジュグジュにただれていく。
離れるのも、一緒にいるのも、辛い。
離れた結果、完全にユンギさんを忘れることも出来ず。顔を見せてくれたらまんまと戻ってしまう程に決意は緩かった。両方苦しい、それなら、一緒にいた方がマシだって。
けど、もう、物理的にそばにいるだけでは、わたし達は。あの頃には戻れない。ひびは、修繕しない。
それも、わたしたちの瓶に入ったのは取り返しのつかないほど大きなひびだった。取り繕っているだけではいつ、どのタイミングで原型の分からない程壊れてしまうかは、いつからか。時間の問題だった。
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苺あめ(プロフ) - 毎回楽しみでした。彼女とユンギの出会いが気になりました。一度無くした信頼はなかなか取り戻せないですよね。でも『続く』ってなってたので、また物語が始まるのを期待してます。 (2月7日 11時) (レス) @page20 id: 3780d68ff4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろい | 作成日時:2024年1月19日 22時