55 愛は、 ページ14
わたしが写真に反応を示さないでいれば、直々に着信音が鳴った。
笑っている様で、優しい声音のようで、底冷えするような綺麗な声が、今も心に、耳に。こびりついて離れない。
それでも。わたしは徹底して無視を貫いた。
わたしはその女性歌手について詳しくなかった。だから、気持ち悪さと、動悸を抑えながら彼女について調べたけれど、確かに、耳の奥で何度も反芻する声はネットに上がっている動画と変わらないように思えた。
けれど、確定とは言えない。
ユンギさんのキャリアを壊すことは出来ない。いっ時の怒りで感情的になり簡単に口を滑らせてはいけないって。
それが相手を逆上させたらしい。
「別れろ」「別れろ」と何度もかかってくる電話。見たくもない写真。まるでスマホが汚染されたようで。
芸能人はいくつもスマホや電話番号を持っているのか、着信拒否しても着信拒否しても電話は鳴った。メールも、カトクも。嫌がらせは止まなかった。
だから、捨てた。
あの日の、3流ドラマ。
芸能人達の恋愛ストーリーにあぶれた、なんの才能もない、一般人。
「電話番号ごと変えたのはそれが理由です」
毎日死にそうなほどに苦しくて。このまま死んでしまいたいと何度も思った。
彼女から送られてきた写真や動画、カトクのやり取りで、ユンギさんの不自然な行動、いない期間。全てが点と点を繋いで線を引くように繋がった。
家には作業室もある。なのに、そんなにずっと、事務所の作業室に篭らないといけない?
海外の方との協働する制作は家のPCではできない?
たくさんの疑念は喉にひかかって飲み込みづらく、でも、だから「忙しいんだ。」って無理やりそういうことにして、奥までねじ込んで事実を殺すことにした。
思考を意識的にぼかした。
『オンニ、それ、得意だもんね』
どこかで、“わたし”が、嘲笑する。
許してよ。しょうがなかった。だって、だって。だって。
そうでもしないと、ほんとに、わたしがあの女に、殺されそうだった。
あなたはまだ、知らないかもしれないけど。
愛は、重い。
重いの。
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苺あめ(プロフ) - 毎回楽しみでした。彼女とユンギの出会いが気になりました。一度無くした信頼はなかなか取り戻せないですよね。でも『続く』ってなってたので、また物語が始まるのを期待してます。 (2月7日 11時) (レス) @page20 id: 3780d68ff4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろい | 作成日時:2024年1月19日 22時