52 返事 ページ11
そんなユンギさんの言葉にまるで、世界が一瞬。時を止めたような感覚を覚えた。
「え⋯⋯」
瞳が、揺れた。その中に映るわたしと、目が合ったような。
「実は指輪も見に行ったんだ。でもやっぱりAと一緒に選ぼうって。学生のうちは無理なら、婚約だけして。婚姻届も全部書いていつでも出せるように置いとこう。もう嫌なんだよ。お前のこと失うのは」
ユンギさんの言葉に、もう一度彼の手を振り払ってわたしは俯いた。
ぎゅっと。病院の真っ白な布団のカバーを握る。
「⋯⋯返事は⋯⋯?」
何言わないわたし、ユンギさんが促す。
大きく、息を吸う。心臓がどくどく、嫌に速く。強く脈打っていた。
病室に訪れた静寂の中。彼に聞こえるんじゃないかってくらい。病院特有の、清潔な匂いが、鼻につく。
吸った息を、吐き出す代わりに。
「⋯⋯⋯⋯ねえ、ユンギさん。ヒビの入ってしまった瓶って、なおせると思いますか?」
「は⋯⋯?」
言葉を。
突然何を言い出したんだ。と言わんばかりのユンギさんの表情。
気づかないふりをして、続ける。
「応急処置は出来ると思います。テープを貼ったり、接着剤を使ったり、わたしにはあまり知識がないけど多分。けど、もう一回ヒビが入っちゃったら、完璧になおすことって出来ないと思うんです」
「なんの話して⋯⋯」
「わたしと、ユンギさんの話です。」
声が震える。怖い。嫌だ。⋯⋯⋯⋯でも。
「もう、無理だと思います、わたし達。別れたいんです」
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苺あめ(プロフ) - 毎回楽しみでした。彼女とユンギの出会いが気になりました。一度無くした信頼はなかなか取り戻せないですよね。でも『続く』ってなってたので、また物語が始まるのを期待してます。 (2月7日 11時) (レス) @page20 id: 3780d68ff4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろい | 作成日時:2024年1月19日 22時