43 凶器か狂気か ページ2
アルコールで思考をぼやけさせて仕舞えればよかったのに。
Aを襲った凶器がウィスキーのボトルだったと知って、それを見ると吐気を催すから飲めなくなった。
幸い、野外に長く野晒しにされた瓶は通常より小さな衝撃で割れるほどに劣化していたこと。
Aの住むマンションの隣の平屋の老人は偶々朝の散歩の帰宅途中で自分の家の瓶を持ち出している男に気付き、警戒していたらしい。すんでで止めに入ったのだという。
しかし歳をとっているためそんなに俊敏には動けなかった。キムジョンユは声を上げられ少し怯んだ様子を見せたものの、Aの頭に瓶は振り下ろされた。
もっと早くに声をかければよかったこと。そして酒瓶を並べていたことを重ねて、Aの家族とおれに戸惑いを隠せない様子で謝った。
Aの親御さんは一瞬振り上げた拳を、声を。グッと堪え。
「いえ⋯⋯きっとそれがなくても違う形で娘はこうなっていたと思います。そちら様も巻き込まれた被害者です。気にかけて下さりありがとうございます。Aが一命取り留められたのはあなたのおかげです」震えた声でそう答えた。
実際、もしもそのまま力一杯殴られていたらAに命があったかどうかも怪しいだろう。
そう考えると震えが止まらなかった。
「娘さんを守れず申し訳ありません」
これまでの人生で1番深く。腰を折った。
もしかしたら合わせる顔がなかったからかもしれない。
「ユンギくんは悪くない、悪くないのよ⋯⋯⋯」
頭を下げたおれに、「顔をあげて」と。でもおれは、真っ直ぐに向き合うことができなくて。
誰がなんと言おうがおれの責任だった。
人生で初めて、人を殺したいと思っていた。
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苺あめ(プロフ) - 毎回楽しみでした。彼女とユンギの出会いが気になりました。一度無くした信頼はなかなか取り戻せないですよね。でも『続く』ってなってたので、また物語が始まるのを期待してます。 (2月7日 11時) (レス) @page20 id: 3780d68ff4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろい | 作成日時:2024年1月19日 22時