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リミットブレイク ページ32

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嫌な現実がまた戻ってきてしまった。

はぁ、と大きなため息をつきながらAはパソコンから目を離し、一つ伸びをする。



チラリと目を移したペンケースにはイルカのクリアなキーホルダーがついている。指先でそれを摘めば、水色のそれが愛らしい目を覗かせた。
これは先日水族館に言った際に北と揃いで買ったものだ。お揃いなどしたことがなかったAが半ば興奮しながら北にお願いして、同じものを着けてもらったのだ。





今頃、北は何をしているだろうか。


Aは暇があれば北のことを考えるようになっていた。
お昼ご飯作ってるのかな、洗濯物か、それとも掃除か…初めて来た時こそ戸惑ったが、彼の割烹着姿はとても板についている。

でもやっぱりこっち方が、とスマホの電源を入れてホームを見た。
そこにはサメの巨大な歯の前でポーズを決める自分と北がいて、無邪気に笑っている。




『俺も待ち受けに設定しとく、今日一番の思い出やな』




優しく笑って、スマホのホームに設定していた北の顔を思い出す。
自分もこんな顔が出来たのか、とAは北と一緒にいる時の自分の顔の緩さを見て途端に羞恥心が湧いてきたのもつかの間。




「それ、Aの男?」
「なッ、し、志津……!?」




Aは急いで携帯を胸に抱き、隠す。完全に見られた。よりによって、一番見られたくないやつに見られてしまった。
志津はそれでもAの手から携帯を取り上げ、じっとホームを見る。

その時の志津は蛇のように鋭く、冷たい目をしていた。



「コイツがキタシンスケ?」
「…そうだよ」

「クソ真面目そうな顔してんな、お前こんな奴が好きなの?」



真面目しか取り柄のないお前にお似合いだな、そんな声が聞こえて乱暴にスマホが投げ渡される。運悪く取り損ねたそれは床へと落ち、パリッという嫌な音がした。

拾い上げてみれば画面に亀裂が入っており、丁度自分と北の間に走っていた。Aの心が音を立てて崩れていく。



反論する気も怒る気も起きない。ただただ悲しい。




「…志津、早くグラフ纏めてくれないかな。こっちつまってるから」
「はぁ?やってるよ今」


「モタモタしないで早くしろって言ってんの!!」




出したこともないような大声が自分の口から出たことに、Aは自分で驚いていた。
睨むようにこちらを見る女性社員、物珍しそうな顔をする男性社員。目を見開いてこっちを見上げる志津。


あぁ、もう限界。貴方は、一体どうしたらいいと思う?




Aは心の中でイルカにそう尋ねたが、悲しげな水色のイルカは何も答えてはくれなかった。

双子狐との遭遇→←二頭のイルカ



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赤羽 - 好きです。最高 (4月12日 23時) (レス) @page45 id: b22b7ccd76 (このIDを非表示/違反報告)
わか - 今まで読んだ作品のなかで一番の作品でした!完結まで書いてくださり、ありがとうございました! (12月17日 18時) (レス) @page45 id: ba86f2a0b9 (このIDを非表示/違反報告)
rin - めっちゃ好きです (9月12日 21時) (レス) @page45 id: 452f9d3433 (このIDを非表示/違反報告)
朝ごはん(プロフ) - 最高です。 (2022年1月10日 1時) (レス) @page45 id: 9242d0adf9 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 素敵なお話で、一気に読んでしまいました!心が温まりました。 (2020年11月5日 21時) (レス) id: 92da2ec8b0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴいち | 作成日時:2020年2月10日 23時

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